「最近の若者は甘えている」という言葉は、古くはエジプトでピラミッドが造られていた時代から使われているそうです。いつの時代も、年長者自身の経験や成果を前提として、後輩世代の様子を見てみると、甘えや怠けといった括りでフィードバックしてしまうのかもしれません。
ニートやフリーター、ひきこもりといった言葉が一般的に使われるようになり、働かない若者・働けない若者がメディアで積極的に取り上げられるようになりました。働いている側、自身のキャリアがうまく進んでいる側からすれば遠い存在。自分とは違う世界で生きる人種のように映し出されることもあります。
[amazonjs asin=”4022735651″ locale=”JP” title=”無業社会 働くことができない若者たちの未来 (朝日新書)”]
NPO法人育て上げネットの工藤さんと立命館大学の准教授である西田さんが書いた『無業社会』。昨年発表された「若年無業者白書」に記載されている調査データを用いながら、働くことのできない若者の実態を伝えた本です。
誰もが無業になりうる可能性をもつにもかかわらず、無業状態から抜け出しにくい社会を「無業社会」と呼んでいる。
①求職型(求職希望し求職活動を行っている)
②非求職型(求職希望しているが求職活動は行っていない)
③非希望型(求職を希望していない)
というように無業者を体系化した場合、②③の方々に「甘え」や「怠け」、「やる気」といった原因追及をしたところで、解決できないことがほとんどです。働いていた頃に起こったつまずきやボタンの掛け違い、アクシデントなどによって、現在の状態に置かれていることが多く、また、求職活動を行っていない、希望していないことにも明確な背景を抱えていることも多いので(本書内ではデータに基づき解説されています)、精神論で問題が解決するわけではありません。
やりたい仕事を選んでいるだけでは?本人の意欲の問題では?自身の今を改善しようという意欲があるのか?といった私たちが抱きやすい疑問に関しても、調査結果に基づいた仮説が展開されています。今、自身が満足のいく会社で働き、満足のいく仕事をしていたとしても、明日どうなるかは分かりません。もし自分が無業者になったとき、自分はどのような状況に置かれるのか、どのような感情が湧き出て、整理しなくてはいけないのかといった観点で読むことができるのも、この本の面白さのひとつです。
終身雇用という制度に支えられてきた日本において、勤めている会社から離職することに対する危機感は、日本人の遺伝子レベルに刻まれているのかもしれません。もちろん、起業やキャリアアップのようにポジティブな要因で離職(転職)するひとは当てはまらないと考えますが、会社都合・自分都合のいずれにせよ、自分自身が100%受け容れられる状況ではない中での離職は精神的にしんどい。その傷が後々のキャリア形成に影響を与えることは事実です。なかなか就職が決まらず、履歴書の空白期間が広がれば、一層就職が難しくなり、精神的に参ってしまう。これは予測がたやすい到達点です。
自分自身が当事者でない場合は、少しでも望まない無業者を減らしていくことが大切だなと感じました。社会側の改善点も大いにありますし、無業者の存在に対する偏見や思い込みを解くこともあるでしょう。企業側が労働環境を改善したり、採用条件や基準を見直すことも必要です。そのヒントはこの本の中に多分に含まれています。
当事者に対して、という観点で言えば、私自身の直感的な意見ですが、「働く」や「仕事」というものに対する捉え方、見方を自分で定義することが大切かもしれません。
あなたにとって「働く」とは何か?「仕事」とは何か?この答えがない中で、働こう・仕事しようという活動を行っても、自分の人生を評価するための判断軸が機能しません。自分の過去を受け容れられず引きずったり、働いているイメージが湧かなかったり。これらは自分自身に答えを持っているかどうかが影響しているように思います。答えは変わっても構いませんし、むしろ、変わり続けたほうがいいと思います。少なくとも、今の自分自身としての回答を持つことが大切であり、納得感があることが重要でしょう。
「働く」とは何か?改めて問いかけられたように感じた本でした。ご興味がある方はぜひ手に取ってみてください。
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