当事者だから開発できたサービス。その運営者の心模様。−Plus-handicap Session #8 レポート−

10月15日に開催したPlus-handicap Session #8「病気や疾患を抱えたからこそ、当事者目線でサービス提供できること」というイベント。
 

若年性希少がんを患った経験から「がんノート」を立ち上げた岸田徹さん、アトピー性皮膚炎と向き合い続けている経験から「untickle」を立ち上げた野村千代さん、脳脊髄液減少症と向き合い続けている経験から「feese」を立ち上げた弊団体の理事重光喬之の3名の起業家を招いて「当事者目線とサービス開発」というテーマでトークセッションを行いました。
 

Plus-handicap Session #8の様子
Plus-handicap Session #8の様子

 

どのようにブランド(信用度)を作っていったのか

 

同じような境遇や状況を抱えている、あるいは抱えていた経験をもつ当事者だからこそ、伝えられること、提供できることは確実にあります。
 

共通経験があることで、伝わるように届けられる、言いづらいことでも言い合えるといったコミュニケーション上のメリットは大きく、また、ニーズを汲み取りやすいぶん、商品開発やマーケティング、販売や営業もしやすいといったメリットも挙げられるでしょう。当事者だからこそ、当事者向けのサービスを開発するという流れは納得度の高いものです。
 

そのメリットを生かすためにも、開発したサービスの認知度や信用度を高めることは重要なファクター。「起業家」への問いとして、ブランドづくりに関する意見を伺いました。
 

「企業とのface to face。会って信用してもらうことが大事。がんノートは動画配信しているサービスなので、サービス自体は見てもらえれば分かるという点があります。こちらから無闇にアプローチするのではなく、縁あってお会いできた企業などに、しっかりと説明していく活動を続けています(岸田さん)。」

 

「私自身が実際にアトピーに苦しんでいる当事者なので、当事者目線で伝えられることがまずは価値だと思っています。アトピーで苦しんでいるひとはいろいろな方法を試している。そんな方々を会員として数多く集められれば、それがサービスの信用につながるのではないかと考えています(野村さん)。」

 

「feeseを立ち上げるきっかけのひとつが、当事者ライターとして原稿を発信していたときに、同病者からいろいろなメッセージをいただいたこと。自分と同じような境遇のひとの存在もたくさん知ったし、困っていることもたくさん知った。そういったメッセージにひとつひとつ返していくことも大事かなと思います(重光さん)。」

 

実際に会う、会員(仲間)を増やす、真摯に対応していく。当事者サービスだからということに限らず、ブランドはひとつひとつの丁寧かつ地道な活動のうえに成り立っていくもの。Plus-handicapというWEBメディア自体も、何らかの生きづらさを抱えた当事者の発信がベースとなっているものなので、3名のお話に納得と反省が広がりました。
 

左から順に重光・野村さん・岸田さん。 一番右は編集長の佐々木が乱入。
左から順に重光・野村さん・岸田さん。
一番右の編集長の佐々木は質問のために飛び入り。

 

当事者だからこそ存在する、自分との向き合い

 

3名の共通点は、自分の症状と向き合う時間が続いていること、そして、再発や悪化のリスクを抱えていること。サービスを開発、拡大している今もなお、自分の病気や疾患と向き合わなくてはいけない状態をどのように捉えているのでしょうか。「当事者」という観点で意見を伺いました。
 

「病気になって失ったものを数えるとキリがありません。もう、これをネタにするしかない、どこまでイケるんやろうと。”Cancer Gift”という考え方が海外にはあって、Congratulationって言ってハグしたりするんです。自分自身もこの感覚を大事にしようしています(岸田さん)。」

 

「自分と向き合うことに対しては答えが出せません。今も苦しんでいて、心が折れそうになることもあります。untickleをやっているから今の私がいる、自分がやらなきゃ誰がやるんだ、勝手な使命感かもしれませんが、この使命感が私を突き動かしているんです。1ヶ月後、どうなっているか分かりません。この使命感を達成するために、誰かが後を継いでくれたらという気持ちももっています(野村さん)。」

 

「野村さんとほぼ一緒。痛みでイライラしていて、いいことはない。自分も勝手に作った使命感のようなもので動いているのかもしれません(重光)。」

 

当事者目線で生まれたサービスを見ると、その起業家に対して、ミッションという言葉を使ったり、あなただからできることという言葉で評価したりしてしまいがちですが、その本人が抱えているものを考えれば、安直な言葉で述べることがはばかられます。彼、彼女らの言葉を借りることでしか伝わりづらい、伝えづらい想いがそこにあるなと感じます。
 

最後は座談会形式で。
最後は座談会形式で。

 

当事者にしか共有できない世界へのひとこと

 

今回のイベントの3人の話をものすごく斜めな目線で聞いたならば(3人ともごめんなさい)、「がんでも、アトピーでも、脳脊髄液減少症でもないから、私にはよく分からない世界だな」という感想が生まれます。
 

当事者にとってはこれらのサービスの意義は大きく、また、自分との向き合いの共感性も高いことだと思いますが、それは当事者が共有できる世界であって、当事者ではない他者には知ろうという努力はできても、なかなか共有できない世界です。
 

自分がアトピー性皮膚炎でなかったとしても、自分の子どもがそうなる可能性はあります。交通事故などのアクシデントによって脳脊髄液減少症になる可能性もあります。今は当事者でなかったとしても、当事者になる可能性は否定できません。
 

偉そうな物言いですが、当事者ではない側がこういったサービスにアクセスしやすい「敷居の低さ」があればいいなと感じました。それは早期発見・早期解決につながる意味でも重要ではないでしょうか。一般層を取り込むか否かという判断が、今のサービスを深めた先に待ち構えていそうです。
 

3人の話を聞きながら、自分では想像もつかない世界の話を聞いたことで視野が広がりましたし、世の中にこんな有意義なサービスがあったのかと自分が当事者になったときのリスクと対処を知ることができました。情報という保険を手にした感覚。これが今回のイベントの大きな収穫です。
 

記事をシェア

この記事を書いた人

Plus-handicap 編集局