日本の福祉機器の先端を知る-国際福祉機器展2015レポート-

東京ビックサイトで開催されていた「国際福祉機器展2015(通称:HCR(Int. Home Care & Rehabilitation Exhibition)」(10月7日~9日)に昨年度に引き続き行ってきました。この展示会は、14か国1地域から522社(国内461社、海外61社)が出展し、来場者数は3日間で11万9075人。アジアで最大の規模を誇っています。
 

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昨年の記事でも書きましたが、福祉機器の業界は現在の日本において数少ない成長産業の一つです。高齢化によって増大する社会保障費を抑制する手立てとして、治療(医療行為)が必要となる前から訓練やリハビリを促していこうという動きがあり、福祉機器の企画開発・生産が推し進められていることがその背景です。
 

富士経済「介護福祉・介護予防関連製品・サービス市場」 https://www.fuji-keizai.co.jp/market/14096.html
富士経済「介護福祉・介護予防関連製品・サービス市場」
https://www.fuji-keizai.co.jp/market/14096.html

 

また、厚生労働省が「保健医療2035」というビジョン(政策)を発表しており、「国民の健康増進、保健医療システムの持続可能性の確保、保健医療分野における国際的な貢献、地域づくりなどの分野における戦略的な取組に関する検討」が掲げられています。国家の戦略としても福祉産業は注目されているのです。
 

(参照)
日本の福祉機器ってこんなにすごいんだ!|昨年度のPlus-handicapでの記事
//plus-handicap.com/2014/10/4217/

保健医療2035|厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/shakaihoshou/hokeniryou2035/
 

ビジネスとしても、国家戦略としても、福祉機器の業界が盛り上がってきている中で開催された「国際福祉機器展2015」。前置きが長くなりましたが、当日足を運んで見つけた「障害当事者の視点から面白い!と感じた」アイテム数点をご紹介します。今回は、車椅子ユーザーの女性とともに、取材してきました。
 

●バリアフリー手動運転装置 「ハンドコントロール」
http://nikodrive.jp/
 

「ハンドコントロール」の解説動画
[youtube id=”XZXRoOabdVU”]
 

自分で自動車に取り付けられる手動運転装置「ハンドコントロール」です。実は足や手が不自由な場合、自動車を運転するためには改造する必要があります。私自身、右足に義足を履いており、ブレーキやアクセルを右足で踏むことができないので、左足で踏めるように自家用車を改造しています。そんな経緯から、このアイテムを見た際、思わず「なるほど!」と唸ってしまいました。
 

このツールを使えば、自身が所有する改造車以外にも乗ることが可能となり、例えばレンタカーなどへの活用につながりそうです。障害者の行動範囲の拡大が期待でき、同行した彼女も「私もこれ欲しい!」と話していました。
 

●デジタル補声器 「ゼルボックス ECO」
http://www.s-h-w.net/DG-Ho/servox.html
 

咽頭ガンなどによって、喉頭摘出や気管切開といった治療を受け、何らかの声が出なくなってしまった方に向けたデジタル補声器。口と舌の動きに問題がなければ(要は口パクさえ出来れば)、デジタル音声で普通に会話が可能となるアイテムです。声帯とは関係ない言語障害の方も会話が可能になり、筆談やチャットなどを用いた発信の手間が省けるのです。
 

ゼルボックス
 

このゼルボックス、ドイツから輸入されてもう30年経つそうなのですが、なかなか認知が進んでいないらしく、代理店さんも販売に力を入れているそうです。
 

●日本アシスト「ロボット便座」
http://www.techno-aids.or.jp/needsmatch/detail.php?id=19&p=1
 

通常のウォシュレットによる洗浄後、水滴をトイレットペーパーで自動的に拭き取ってくれる製品です。これにより、手に不自由さを抱える方などが一人で排泄行為を行えるようになります。製品を見た来場者からは驚嘆の声が上がっていました。来年夏の発売を目標にしているそうです。
 

●重度障害者用意思伝達装置 マイトビー
http://www.tobii.com/ja-JP/eye-tracking-research/japan/assistive-technology/mytobii-p10/features/
 

[youtube id=”PIhhzO5VlDU”]
 

1~2秒間画面の一点を見ていると、パソコン上のカメラが視線を認知し、文字が入力されて自然な音声を発してくれるアプリケーションです。ALSや脊髄損傷の方などのコミュニケーションやリハビリに世界的に活用されており、大変注目されています。日本にも輸入されていますが、まだまだその金額は高く(2013年新聞報道では約140万円)、自費購入の難しさから行政の支援が必要だと言われています。
 

●上肢動作支援ロボット 「アクティブギプス」
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1411/21/news127.html
 

上肢に障害を持つ方を対象とした自立支援用装着型ロボットで、リハビリ効果に加えて、残存機能の向上も期待されるそうです。このアイテムを装着すると、腕を伸ばす力が無くても肩の力を手先に伝達し、車いすの操作であれば、不整地や傾斜地での操作や、プッシュアップ動作(段差などで前輪を持ち上げる動作)などが可能となります。
 

当日の配布資料より。
当日の配布資料より。

 

車椅子ユーザーは下肢不自由というイメージを抱きやすいですが、実は、上肢機能に不自由さを抱える人も少なくありません。実際、同行してくれた車いすユーザーの彼女も上肢機能に不自由があり、「このアイテムは是非自分も使いたい」と話していました。
 

●高性能義足「Xiborg」
http://xiborg.jp/home/
 

為末大さんが制作に携わっていることでも有名なロボット技術を搭載した義足です。モーターやバネ、電気技術などを組み合わせることで、義足の競技性を高め、2020年の東京パラリンピックまでに世界最速の義足アスリートを養成することを目指しています。
 

私はXiborgを見た当初、自分が履く義足とは違う世界の話だと感じていました。しかし、展示会のデモでは、普通の歩行用義足にもXiborgの技術を活用し、より快適で安全な歩行を追及していることを知り、自分の義足に取り入れられる部分があるのではないかという希望が湧きました。
 

当日の配布資料より。
当日の配布資料より。

 

「障害当事者の視点から面白い!」と感じたアイテムをご紹介させていただきました。とはいっても、私自身は義足を履いていて、同行者は車いすユーザーだったことを考えると、面白いという視点にも偏りがあると思います。他の障害を抱える当事者だと、どのようなアイテムに惹かれるのか非常に興味があります。
 

最後に、福祉機器展を通じて、印象に残ったエピソードをご紹介します。
 

今回の展示会には、中国からの出展者・参加来場者が多数いらっしゃっていました。少しお話を伺いましたが、中国では現在、高齢化が急速に進み、障害者にまつわる問題が顕在化し始めているそうです。経済発展の陰で、高齢者や障害者が置き去りになっている一面があるかたわら、日本の福祉機器展では、たくさんの車椅子ユーザーや白杖をはじめとしたステッキユーザーなどが足を運んでいることを目の当たりにして、障害者の社会参加が進んでいることを実感したと話していました。「自分たちもそこを目指したい」という強い意気込みが伝わってきました。
 

福祉機器の企画開発、生産といったハード面で先端を目指すだけでなく、ソフト面でも先進的であるよう、さらなる努力を続ける必要性を感じました。まずは私自身が意識することから始めていこうと思います。
 

(参照)
国際福祉機器展2015ホームページ
https://www.hcr.or.jp/index.html

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この記事を書いた人

堀雄太

野球少年だった小学4年生の11月「骨腫瘍」と診断され、生きるために右足を切断する。幼少期の発熱の影響で左耳の聴力はゼロ。27歳の時には、脳出血を発症する。過去勤めていた会社は過酷な職場環境であり、また前職では障害が理由で仕事を干されたことがあるなど、数多くの「生きづらさ」を経験している。「自分自身=後天性障害者」の視点で、記事を書いていきたいと意気込む。