「おせっかい」なスタッフ陣が、障害者の就職のチャンスを広げる ー就労移行支援事業所「SAKURA福岡天神センター」レポート

言いたいことがあれば言っちゃう。ちょっとした変化も見逃さない。障害があるから配慮するのではなく、一人ひとりの特徴に配慮する。
 

働きたい障害者が就職できるようにサポートする就労移行支援事業所「SAKURA福岡天神センター」の特徴は「おせっかい」。
 

自分の障害が理解できていない、受容できていない。これまで働いてきて失敗が多かった、うまくいかなかった。そんな経緯で足を運ぶ方がいるからこそ、サポートする側・される側の関わりの深さや頻度が、就職とその先にある勤続につながります。
 

福岡市の中心地、天神にある「SAKURA福岡天神センター」の皆さまに、おせっかいに関わる必要性や背景を伺うとともに、就労移行支援に通う障害者の特徴やどのタイミングで就職活動を始めるのがよいのか、などを伺いました。
 

SAKURA福岡天神センター
SAKURA福岡天神センターの皆さん

 

就労移行支援に通う障害者の特徴

 

働きたい、就職したい。そういった想いがあれば、転職(就職)サイトに登録したり、合同説明会に参加したりといった手段を思い描きやすいですが、障害や病気がある場合、就職活動の前に、就労移行支援事業所に通うという選択肢があります。
 

株式会社綜合キャリアトラスト福岡支社の山中さんに、まずは就労移行支援事業所に来る障害者の特徴を伺いました。
 

「就労移行支援を活用する方の中には、自分の障害がまだ深く理解できていなかったり、働くにあたって、どのような配慮や工夫が必要なのか分からなかったりという方が多く、働きたいという気持ちを叶える前に、自分の障害や特徴と向き合うところから始める場合が多いです。(山中さん)」

 

障害者雇用では、自身の障害が理由となって起こる困りごとに対して、企業側は必要に応じて配慮することが義務づけられています。
 

これは、障害者自身が働きやすいように企業側に提案できるとも言えますが、自分の障害や特徴によって、何に困るのか、どこにつまずくのかがそもそも分かっていなければ、配慮も提案もできません。
 

「就職できればいいのではなくて、就職先で長く働き続けること、勤怠が安定し、休まずに働くことが大切で、ここはそのための準備をする場所とも言えます。最大2年間通えますが、その期間中、就活対策はもちろんですが、体調管理や自己理解から始めていきます。(山中さん)」

 

SAKURA福岡天神センター
山中さん

 

「自力で就活できる、働くことに自信がある方は通う必要はないかもしれません。ただ、働くにあたっての悩み、自立や生活への不安を感じるならば、まずは就労移行支援を見学して、話を聞いてみるのはアリだと思います。(山中さん)」

 

自分の力で道を切り開くことはカッコいいことかもしれませんが、わざわざ険しい道を進む必要はあるのでしょうか。活用できるものは活用するほうが近道です。
 

就労移行支援は、障害者が就職活動を進めるにあたって、自分のペースで伴走してくれるありがたい存在です。
 

就労移行支援のスタッフは、先生ではない。

 

どのような企業が自分に合っているのか。どのような仕事が自分には向いているのか。行きたい企業、就きたい仕事は自分の中にあったとしても、客観的なコメントをもらえるメリットは大きいものです。
 

ただ、支援する側・される側の関係性が良好でなければ、そのコメントも的外れになってしまいます。
 

山中さんだけでなく、同じく福岡支社の大野さん、そしてSAKURA福岡天神センター就労支援員の小野さんに加わっていただき、信頼関係を構築するためのポイントやコツを伺いました。
 

「同じ障害名であっても、一人ひとり全然違います。こういう障害だからと当てはめるのではなく、目の前の人と向き合うことが大切。仕事柄、相手のことを知る必要があるけれど、そのためには自分のことを話さないとダメ。それも失敗談とか笑い話とか。障害や病気ってデリケートな話題なのに、相手のことだけ聞こうとするって、ねえ?(山中さん)」

 

「細かいサインやちょっとした変化を見逃さず、話しかけたり、話を聞いたりとすぐに行動を起こせるかどうかが大事。明日の面談で聞こう、忙しくて手が離せない、みたいなのはダメです。(大野さん)」

 

「その人なりの生きづらさのようなものがあって、それが障害特性によるものなのか、本人の特徴や個性によるものなのか、感じ取って、整理していくことも大切。調子がいいとき、悪いときとある中で、研修受講の様子や行動の特徴を見て、状態や態度の背景などを感じ取り、把握することも大切ですね。(小野さん)」

 

SAKURA福岡天神センター
小野さん

 

就労移行支援事業所が、就職に向けた研修などを受講する場所であるという理由もありますが、相手を知るために、まず自分のことを打ち明ける、細かい変化を捉え、その背景を慮りながら行動をとるといった振る舞いは、まるで「学校の先生」のような印象を受けます。
 

「就労移行支援という枠組み上、そういう印象を与えてしまうことはあります。ただ、私たちとしては、先生にならないことが大切で、教える立場ではあるものの、上からではありません。信頼関係があって初めて伝えられる。私たちも信じることから始めるし、信じてもらえないことには何も始まりません。(大野さん)」

 

「本人が決めたから、ここに通ってくる。その決断に対して、真剣に、親身になって応えなくてはいけません。先生というより、就職を共に目指すパートナーのようなポジションです。(小野さん)」

 

SAKURA福岡天神センター
 

学びの時間から、就職活動へ移行するタイミング

 

SAKURA福岡天神センターに通い始め、自身の体調管理や障害受容、自己理解などを進め、独自の研修プログラムを受講するという順番で進んでいく中、どのタイミングで就職活動を始めていくのでしょうか。
 

「まずは本人がどの時期を目標に就職したいと考えているのかが大事です。その上で、自分の就きたい職種が本人と合っているのかどうかを考えなくてはいけません。事務職志望だったのに、実は工場のライン勤務の方が合っていたということも割とあります。自己理解ができた上で、就職活動を始めてほしいと考えています。また、働き続けられる最低限の体力面が備わっていることも重要ですね。(山中さん)」

 

就職ではなく、勤続・定着を目的に置くからこそ、入社後のギャップを少なくすることや働き続けられるだけの体力やストレス耐性を重視していることが伝わってきます。
 

自己理解が進んでおらず、健康状態にも不安がある中で、働きたいです・働き続けられますと企業に伝えても、それは企業にとっても本人にとっても、リスクでしかありません。
 

綜合キャリアトラスト
株式会社 綜合キャリアトラスト(サイトのスクリーンショット)

 

「センターを運営しながら気づいたことですが、就職活動に取り組もう、頑張ろうという雰囲気がプラスになる方と焦りになってしまう方と2つのパターンがあります。前者は自分の力だけでは就職活動が難しいと思って通い始めた方に多く、センターでの学びなどを通じ、できることが増えたという実感を伴って就活へと進んでいくので、プラスに働きやすいです。後者の場合は、早く就職したいという気持ちが強い方に見られる傾向で、自身の課題に直面したり、就活での失敗などで落ち込んだりすると、前向きな意欲が焦りに変わってしまいます。就活は簡単ではないし、苦しいこともある。成長の機会だと納得できるかどうかも就活へ一歩踏み出すポイントかもしれません。(大野さん)」

 

履歴書を出せば、すべての企業で選考に進めるわけではありませんし、面接を受ければ、必ず内定が出るわけでもありません。就職活動は自分の想いとは裏腹なことが起き、いろいろな影響を自身に及ぼします。
 

その影響をやり過ごすことができるかどうか。就職活動へ移行できるかどうかの判断軸は、その線引きにあるのかもしれません。
 

ただ、自分ひとりで苦しいことや不安に感じていることを抱えずにすむところが就労移行支援の良さであり、SAKURA福岡天神センターの「おせっかいさ」がにじみ出るところです。
 

「言いたいことがあれば言っちゃうし、ちょっとした変化にも気づきたい。私たちって、おせっかい、世話焼きなのかもしれない。SAKURAを選んでくれたから出会えたわけなので、その相手のためにやれることは何でもやりたいんです。(山中さん)」

 

就職活動に臨む前に、自分にとって安心できる居場所があること。その安心感があるからこそ、自分自身が試される就職活動に臨むことができる。この循環を作り出そうという点が、他の就労移行支援事業所とは違う、SAKURA福岡天神センターの強みなのかもしれません。
 

(今回の取材先)
株式会社 綜合キャリアトラスト SAKURA福岡天神センター
福岡市中央区天神1-9-17 福岡天神フコク生命ビル3階
http://socat.jp/sakurafukuokatenjin/

 

ライター:佐々木一成

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