「ピンチこそ、チャンス!」株式会社ONIGIRI Plusの代表取締役の雅南ユイさん×編集長対談

雅南ユイさん
 

元引きこもりの経歴を持ち、現在は1000人以上のコスプレイヤーが登録する 株式会社 ONIGIRI Plus の代表取締役社長を務める雅南(かなん)ユイさん。
 

ビジネスとして難関だと言われていたコスプレ業界で著作権と提携するコスプレのプロモーション会社としてビジネスを成功させ、NHKスペシャル出演やビジネス雑誌「AERA」に掲載などの輝かしい経歴を持ち、ご自身もコスプレイヤーとして活躍しながら、新人の育成やプロデュース、各種イベントや各会社のコンサルやアドバイザーとしても活躍されています。
 

今回は、Plus-handicap編集長の佐々木が「マイナスなできごとの乗り越え方」についてお話を伺いました。
 

コスプレ写真へのいいねやコメントが、自信につながった

 

佐々木:
早速ですが、雅南さんがコスプレを始めたきっかけって何ですか?
 

雅南さん:
イジメ。そして引きこもりから脱却したい、自分が変わりたいという気持ちからのスタートでした。コスプレイヤーは、皆様大体、お家の中でコスプレをして写真を撮る「宅コス」から始めます。私が「宅コス」をやっていた当時はmixiの前のSNSの走りみたいなのがあって、そこに写真を投稿してみたら、いいねがついたり、コメントが来たりするようになっていたんです。
 

佐々木:
まず、ネット上での人との出会いがあったのですね。
 

雅南さん:
「知らない人がわたしを応援してくれている」というのは、すごくパワーをもらえました。「どこに行けば、その人たちに会えるだろう」と調べて、撮影会イベントに行ってみたんです。
 

佐々木:
そこから、だんだんと広がっていった感じですか?
 

雅南さん:
そうです。撮影会では、自分がコスプレをするとカメラマンの人たちがズラッと並んで写真を撮ってくれるんです。当時は、まだデータのやりとりが盛んではなかったので、「次に会ったときに、現像して渡すね」と約束をして、仲良くなっていきました。
 

佐々木:
いいですね!手軽にやり取りできる今とは、また別の良さがあるなぁ。時間をかけて、居場所を作っていくような感じというか。そうやって、少しずつコスプレの世界に入っていったんですね。
 

雅南さん:
普通、コミュニティって家族と学校と会社くらいに限られちゃうじゃないですか?でも、それ以外のコミュニティが自分にはある!応援して下さる仲間がいる!という事実が自信になりました。「今、目の前にいる人たちに認めてもらわなくても、私を応援してくれる人は世界中にいるから大丈夫」と思えるんです。
 

コスプレは、自分の足りないところを補ってくれる

 

佐々木:
コスプレをしているときって、どんな感覚なんですか?
 

雅南さん:
うーん、そうですね。分かりやすい言葉をお借りすると「虎の威を借りた狐」というイメージかなと自分は感じております。
 

佐々木:
なるほど。
 

雅南さん:
自分の気持ちが弱かったとしても、憧れのキャラクターのコスプレをすると、そのキャラクターに近づけるような気がするんです。まず見た目から入って、そのキャラクターのセリフを真似したり、「この人なら、こういう行動するだろうな」とマインドを真似したりするようになっていく、そのうち自分本人も逞しく強くなっていくようなそんな感じです。
 

雅南ユイさん
 

佐々木:
外見だけじゃなくて、行動や考え方もその人になりきっていくんですね。「この役になりたい!」というキャラは、どうやって選ぶんですか?
 

雅南さん:
最初はやっぱり純粋に好きなキャラクターです。他には、自分に似ているけれど、頑張って弱いところを克服しているキャラクターとか。我々は、それぞれ置かれている環境もちがうので、惹かれるキャラクターも違うと思います。自分の足りないところを補ってくれるような、そして支えてくれる存在なんです。
 

佐々木:
ちなみに、雅南さんが最初に選んだキャラって何だったんですか?
 

雅南さん:
すごくマニアックなんですけど…ちゃんとしたコスプレの始まりは『LOVELESS』というアニメの猫耳の男の子のキャラクターです。私自身「女性らしくない、可愛くない、どっちか分からない、オカマみたいで気持ち悪い」と周りから言われ、自分が女性で生まれてしまったことも疑問に思っていた時期がありました。
 

「女の子だったら”普通”こうするの」「女の子だったら”普通”こう言うの」、その「普通」こそがもやもやしてました。そんな不安定だった自分をうち破ってくれたのがその「少年の男装コスプレ」でした。「女みたい」→「中性的」のプラスに転換しているキャラクターにとても魅力を感じました。猫耳もついているってことは生き物の壁も超えているということで。いい意味で吹っ切れててカッコいいなって。そんなところに魅かれたんだと思います。
 

あ!もっとさかのぼると、小学校のときに『爆走兄弟レッツ&ゴー』というアニメの真似で、作業ジャケットを買って着てみたりしていました。言ってみれば、それも「コスプレ」のはじまりですね!(笑)
 

佐々木:
なつかしいですね!ミニ四駆のアニメだ!
 

雅南さん:
この業界で出会う子は、もともと引きこもりや自分に自信がないという状態からコスプレイヤーになるパターンと、モデル等で華々しく活躍していた子がコスプレイヤーになるパターンとがあります。アイドルやコンパニオンは25歳位で年齢の壁があります。ただ、コスプレだと年齢が関係ないのがこの業界の魅力なのかもしれません。
 

佐々木:
実年齢よりも「どれだけキャラになりきれているか」とかの方が大事ってことでしょうか。
 

雅南さん:
そうです、コスプレは活動の幅が広いということです。体系も容姿も様々!それがキャラクターでありプラスとして生きてきます。色んな素敵な子達を色んな形でプロデュースするのが大好きです!
 

「ピンチはチャンス」と考えるようになったきっかけは自殺未遂

 

雅南さん:
私の好きな言葉は「ピンチはチャンス」です。マイナスなことがあっても「これを乗り越えたら、その後にすごくいいことが待っている」と思っています。
 

佐々木:
そう思えるようになったきっかけって何ですか?
 

雅南さん:
言いづらいのですが、高校生のときに自殺未遂をしたことがあったんです。でも、そう簡単に死ねなくて。だったら、そこで死んでしまうよりも、「一度死のうとした命だから、思い切りやろう」と切り替えたんです。
 

雅南ユイさん
 

佐々木:
一度、死に直面したことで考え方が変わった?
 

雅南さん:
こんなに素敵な出会いや素敵な時間で、毎日を過ごすことが出来るようになった!それは今も生きているから。あの時死んでしまっていたら経験できなかった。毎日を感謝して生きてます。
 

もしかしたら、あの時は人生のリセットボタンを死に頼ってしまっていたのかもしれません。そういう風に考える人って、完璧主義というか、自分という人間に対して「こうじゃなかったのに」とか理想が高すぎてしまってオーバーヒートしてパンクしてしまうような気がします。
 

佐々木:
僕もどちらかと言うと完璧主義なんですけど、そういう人が肩の荷を下ろすにはどうしたらいいんでしょう?
 

雅南さん:
極論なんですけど「完璧主義なことがマイナスな部分もあるんだよ」ということを認めることじゃないでしょうか。あとは…いい意味で諦める!
 

佐々木:
諦めは、大事ですよね。最近、小学校で講演するときに、子どもたちの足を指差して「いいね、みんな足があって」って言うところから始めているんです(笑)。みんなそれを聞いて笑ってくれるんですけど、僕自身「なんで自分には足がないんだ」と思っていたら、立ち直れなくなるんですよ。もう「ないんだからしゃーない」って割り切るしかない。
 

雅南さん:
私も割り切りは必要だと思っています。例えば、会社を立ち上げたときにも、いろいろな人に「止めておけ」とか「お前なんかが…」みたいな文句を言われることもありました。でも、ターニングポイントのときって、多くのものを捨てなきゃいけないんです。その人達との関係を諦め、割り切れるかどうか。その孤独に耐えられるかどうか。
 

佐々木:
何か新しいことを始めるときは、挑戦を応援してくれる人ばかりじゃないですからね。悪い言い方をすると、足を引っ張るような人たちもいます。
 

雅南さん:
「昨日まで仲が良かったのに、なんでそんな態度?」だと、そこで考えが止まってしまいます。時には「この人は、ここまで支えてくれた人だったんだな。今まで、ありがとう!」と認めて離れることも必要だと思っています。今では、もう一つ私のステージがアップする瞬間なんだなって今はワクワクできるようになりました。
 

佐々木:
雅南さんのように、変化に対応していける人はあまり生きづらくならなさそうな気がします。生きづらい人の場合だと、理想と現実のギャップをなかなか受け入れられなくて、しがみついちゃう人も多いので。
 

雅南さん:
でも、私が「もっと、こうした方がいいのに」と思っても、相手にとっては「うーん…」と受け付けてくれないこともありますよね。そんなことで悩んでいたとき、人生の先輩に啐啄(そったく)の話を教えてもらいました。
 

佐々木:
啐啄?
 

雅南さん:
雛が卵からかえろうとするときに、子どもは内側から、母親は外側からつつくんです。外側から卵をつつくタイミングは、早すぎても遅すぎても、雛は死んでしまいます。
 

だから「こうした方がいいよ」と言っても、相手がやりたくないのであれば「今はまだ、そのときじゃないんだな」と思うようにしています。そうやって、完璧主義なところを逃がしています。
 

佐々木一成
 

佐々木:
なるほど。僕も「この人は変わりたいと言っているけれど、まだそのタイミングじゃないだろうな」と思うこともあります。そのタイミングを見極めることも大事なんでしょうね。
 

雅南さん:
そうやって上手くリードしてあげたり、プロデュースしてあげたりするのが、我々の手腕が問われるところかな、と思っています。
 

佐々木:
最後にうかがいたいんですが、雅南さん自身、引きこもりや自殺未遂を経験していた。つまりは「生きづらい」側だったと思うんです。でも、いまは「生きやすい」側。さらには生きづらい人たちを生きやすくしようとしている。そのスイッチって何だったんですか?
 

雅南さん:
「もっと楽に生きれる方法を教えたい」という<熱>ですね。
 

さっきお話しした「自殺未遂経験」、人間ってそう簡単に死ねないんです。「死をリセットボタン代わりに思っていた」とも言いましたけど、そうじゃなくて「やり直そう」「もう一回スタートしよう!」と思っただけでもリセットボタンになるんです。
 

そこまで大きいことじゃなくても良い。「今日から、何か一つ頑張ってみよう!」と部屋を片付けてみたり髪を切ってみたりする、そんな小さなことからがオススメです!コスプレもその一つじゃないでしょうか。
 

「やり直したい」「変わりたい」と思う時、とてつもないエネルギーが必要なんじゃないかと尻込みしてしまう時もあるかもしれません。
 

実はそんな大きなエネルギーは必要ではなく、小さい事の積み重ねが、いつの間にか大きな変化になっていくんです。
 

だからこそ、のんびりとサクサクと。
 

私や佐々木さんを思いだして「自分も変われる!」と思って欲しいです。そしてそれが凄く大きなバネになって、「生きていなきゃこんなに楽しい経験はできなかった!」という日が必ず来ると信じて欲しいです。
 

佐々木:ありがとうございました。
 

記事をシェア

この記事を書いた人

Plus-handicap 取材班