求職中の障害者に必要な3つの役割。選択肢を広げるか、狭めるか。ー就労移行支援事業所「SAKURA」で働く3人に聞く。

障害のある方が2年間の期限付きで企業への就職を目指し通う「就労移行支援事業所」。そこで働くスタッフの方々を”いかに活用するか”によって、就職活動に至るまでの準備や就職活動時のサポートの効果が変わります。
 

株式会社綜合キャリアトラストが運営する就労移行支援事業所「SAKURA」で働く3名の方にお話を伺いました。求職中の方にとって、3人がどのような存在なのか。経験年数や立場が違うからこそ生まれる、役割分担の妙をまとめてみました。
 

伊賀良美さん

 

1人目は入社して1年半の伊賀良美さん。就労移行支援事業所では、就職に向けての様々な講義が行われていますが、伊賀さんはビジネスマナーの講座やパソコンのスキルアップの講座を担当しています。また、4名の個別支援を担当しています。
 

SAKURAに通っていただく方には様々な障害のある方がいます。その中には「朝起きられない」といった悩みを抱え、生活リズムを整えるところからスタートする方もいます。それこそ、目覚まし時計を増やしましょう、置く場所を工夫しましょうといったサポートから始めます。SAKURAに毎朝通ってくること自体が、働くための一歩です。(伊賀さん)

 

就職活動のサポートというと、履歴書の書き方や面接対策などを思い描きやすいですが、就労移行支援というジャンルでは、朝起きる・自分の心身の調子を把握するといった生活リズムを整えることも重要なサポートになります。企業で働く一歩手前の状態の改善から始まります。
 

企業で働くためには、安定して就労できることが必要なんですというお話を皆さんにします。休まずに出勤する、翌日の仕事のために体調を整えるといったことを伝えるところからスタートですね。(伊賀さん)

 

いろいろな障害のある方がいるため、置かれている状況によっては、朝起きることを習慣化するだけでも大変な思いをする方もいらっしゃいます。また、こういったことは自分で整えるものだと考えている方もいるかもしれません。
 

しかし、自分に寄り添って、伴走してくれる存在に心強さがあるのも事実。いい意味での緊張感と困ったときの頼りやすさは大切です。伊賀さんのように「一緒に考えてくれる」伴走者がいることはありがたいことです。
 

新井毅さん

 

2人目は入社して4年目の新井毅さん。SAKURAで働く以前に人事の仕事をしていた経験を活かし、就職活動に関する講座の担当や、面接の同席、その後の振り返り面談などを担当しています。
 

傾聴という言葉をよく聞くようになりましたが、私たちの仕事も傾聴が大事です。支援という仕事だと、どうしても相手に「こうしたほうがいい」と話してしまいたくなることもあるんですが、相手の話をフラットに聞くことが大事です。(新井さん)

 

就職活動に至るまで、また就職活動中にも、いろいろな悩みや不安、心配事などが出てきますが、それを自分で抱え込まず、誰かに打ち明けることは大切なことです。もちろん、すべての悩みなどを同じひとに打ち明けられるかどうかは別の話ですが、「このジャンルの相談はこのひと」というように定められると楽かもしれません。
 

まず相手との信頼関係を築けなくては、この仕事はできません。一方的に話してしまったり、指導されたという印象を持たれてしまったりするとよくないので、前のめりにならないように気をつけています。なるべく相手に話をしてもらおうと気をつけています。ただ、自分の話をすることで、相手が話してくれることもあるので、そのバランスですね。(新井さん)

 

就労移行支援事業所を経由して就職すると、就職後の相談にも乗ってくれることがほとんどです。働き始めて生まれた悩みや不安を相談することもできれば、就職した企業に対して言いづらいことなどをどのように報告・連絡・相談すればよいか一緒に考えてくれます。
 

就職活動時だけでなく、就職後も親身になってくれる存在、また相談できる場所があることを知っておくだけでも不安緩和につながるかもしれません。
 

冨永伸治さん

 

3人目は業界17年のベテラン、冨永伸治さん。SAKURAでは、新宿センターのサービス管理責任者を担っています。
 

私が常日頃から伝えているのは、情報を深掘りする力が必要だよということ。就職活動中に求職者の方々が見る求人票や企業のホームページに載っている文言がすべてではありません。自分で考えることも、質問することも大事。これは私たちスタッフ側も一緒だと思います。(冨永さん)

 

たしかに、求人票や企業のホームページには、誰に読まれても困らない情報が記載されていることがほとんど。額面通りに受け取るだけでは、得られる情報は不足してしまいます。
 

企業の担当者さんに話を伺えば「仕事の細かい部分は来てくれなければ教えられない」や「まずは休まずに出勤してほしい」など、一社一社それぞれの声を聞くことができます。それをご本人に伝えることも重要。本音を探り、本音で伝える。私たちはプロとして仕事をしているので、本音で仕事しないとね。(冨永さん)

 

就職を支援するプロフェッショナルが拾えない情報を、求職中の方々が拾うことができるのか。厳しい言い方をすれば、支援する側の限界如何によって、働きたいと願う側の将来の進路の選択肢が広がりもすれば、狭まりもします。
 

プロとして厳しいことを伝えてくれる存在、本音で向き合ってくれる存在がいることで、自分の将来の可能性が広がるのではないでしょうか。
 

株式会社 綜合キャリアトラスト(サイトのスクリーンショット)

 

今回のインタビューでは、「一緒に考えてくれる、伴走者的な存在」である伊賀さん、「話を聞いてくれる、親身な存在」である新井さん、そして「本音を探り、本音で向き合う存在」である冨永さんと、経験年数も立場も異なる3人のお話を伺いました。
 

どのような方を頼りにするのかは、自分自身の状況や就職活動の進捗によって変わることでしょう。ただ、就労移行支援事業所という場所がどのような場所で、どのような方が関わってくれるのか、その背景を知らずして、就職という自分の人生の岐路に臨むことは、少しリスキーなようにも感じます。
 

生きづらさや働きづらさを抱えたひとをサポートするサービスは様々な種類があります。上辺だけの情報ではなく、どのようなひとが自分の人生の岐路に関わるのか、そこを知ることが一番大切な準備なのではないでしょうか。
 

(今回の取材先)
SAKURA新宿センター
東京都新宿区歌舞伎町2-46-3 西武新宿駅前ビル
http://socat.jp/sakurashinjuku/

※障害があり、一般就労を目指す方のための就労移行支援施設です。
ライター: 森本しおり
 

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この記事を書いた人

Plus-handicap 取材班