障害・仕事ありきではなく、人柄重視の障害者雇用を推し進めることの意義。 −綜合キャリアトラスト 福岡支社の皆さんに聞く。

多くの企業にとって組織課題として挙げられる障害者雇用。2018年4月の制度改正によって、企業が障害者を雇用する基準となる法定雇用率が2.2%に引き上げられました。従業員の45.5人に1人、障害者を雇う必要があります。
 

この法定雇用率があることによって「障害者を雇用しなくてはならない」という、一種の義務感に駆られてしまう企業も少なくありません。
 

義務だから、未達成だと罰金を払わなくてはならないからといった観点で企業側にメッセージを届けたとしても、前向きな気持ちで取り組むことは難しいもの。ルールだからやれ!と言ったところで、そんな言葉だけじゃ組織も個人も動きません。
 

今回は、福岡県全体の障害者雇用を推進するための事業に取り組む、綜合キャリアトラストの福岡支社の皆さんと代表の宮林さんに、障害者雇用を企業に啓蒙していくやりがい、そして人柄重視の障害者雇用の大切さについてお話を伺いました。
 

綜合キャリアトラスト 宮林社長(左)と福岡支社大野さん(右)

 

企業が障害者雇用に後ろ向きになるとき

 

福岡県の障害者雇用拡大事業の中で、職業紹介事業と精神障害者雇用の中小企業向けサポート事業を受託している綜合キャリアトラスト社。実際のところ、福岡県の企業は障害者雇用に前向きなのでしょうか。
 

「県内だと雇用義務が発生する会社が3500社ほどありますが、総じて前向きな印象をもっています。それこそ、障害者雇用のセミナーを実施しますと呼びかければ、すぐに席は埋まってしまうほど。人事担当者レベルでは取り組まなくてはならない組織課題のひとつという認識があり、ただ、どう取り組めばいいかわからないという状態なのかなと感じています(大野さん)。」

 

「当社でもいくつかの県の障害者雇用に関する事業を委託していますが、県によってその取り組み方は違っていて、県の担当者の方の意識などに左右されるのかもしれません。福岡県の場合は長期スパンでじっくりと進めていこうという意識が強いように感じます。だからこそ、企業側も協力していこうという姿勢につながっていくのかなと(宮林社長)。」

 

Plus-handicapでも先日、ホテル業界向けの障害者雇用セミナーへ講師として参加しましたが、参加企業の中には、本音で言うと障害者雇用に及び腰であったり、後ろ向きであったり、現場からの理解が得られなかったりということを耳にしました。
 

「正直に言えば、そういった企業さまも少なからずいらっしゃいます。ただ、障害者に対する偏見や無理解から生まれているというより、雇用したけれど定着しなかったという失敗体験、自社の社員がうつなどの精神疾患によって休職したときの現場の反応といった、それぞれの会社の過去の事象に原因がある場合が多いなと感じました。調査したわけではないので、営業マンとしての肌感覚ですが(大野さん)」

 


 

「失敗経験を踏まえ、同じ轍を踏まないようにサポートしていくというのが私たちの仕事でもあるので、採用活動からフォローすることはもちろんですが、実習や見学の機会提供、既存社員向けの障害者雇用勉強会、採用される側の障害受容・理解の支援など、1社1社の現状に合った体制を作っていきます(大野さん)。」

 

仕事・障害ありきではなく、人柄重視の障害者雇用

 

障害者雇用の業界において、いくつもの競合企業がありますが、綜合キャリアトラスト社ならではの強みや特徴はあるのでしょうか。
 

「一般的に障害者雇用は求人票を見て、障害者がそこに記されている仕事に合わせる形が多いのですが、当社の場合はフィーリング重視。企業側が障害のある方を見て、この人を採りたい・この人と働きたいと思ってくれるかを大事にしています。新卒採用のイメージに近いかもしれません(宮林社長)。」

 

「どんな人と一緒に働きたいですか?とよく聞いています。企業の考えや雰囲気と求職者の人柄や雰囲気がびたっと合ったときに採用が生まれるものだと考えているので、この人と働きたい、じゃあどうすれば働いてもらえるかなという視点で、仕事や労働時間をコーディネートしています(上妻さん)。」

 

福岡支社の上妻さん(左)と森さん(右)

 

「障害者雇用って、企業の想いや理念を発信し、そこに共感したひとを採用するということがあまりない。そして、自社のあり方を知った上で親身に相談に乗ってくれる会社って、障害者雇用の業界にはほとんどない。それこそ、雇用数だけしか見ていないようなもの。それだと「人材紹介の事務作業」にしかならないんですよね(大野さん)。」

 

障害者雇用は、障害者に任せる仕事を切り出し、その仕事を任せられる障害者を探していくという流れが多く、いわば仕事ありき・障害ありきのものがほとんど。しかし「この人と働きたい」と思えるかどうかという人柄重視の障害者雇用は、採用以上に、定着を見据えたもの。一緒に働きたいと思うからこそ、配慮やサポートが自然に発生し、働きやすさを共に考えていくことになります。
 

仕事を準備することが先なのか、この人を採用したいと思うことが先なのか。たしかに、任せる仕事内容は後から付いてくるものかもしれません。
 

株式会社 綜合キャリアトラスト(サイトのスクリーンショット)

 

障害者雇用を拡大していく仕事のやりがい

 

企業と求職者(障害者)の間をとりもつ、障害者雇用の支援の仕事。実際、どのような点にやりがいがあるのでしょうか。
 

「働きたいと考えている障害のある方が面談に来たとき、自身の障害特性や配慮項目を面談の中で整理していくと、不安そうな顔からスッキリしましたという顔に変わっていく。この変化が自信や意欲に変わっていくので、この変化を感じられることがやりがいですね(森さん)。」

 

「企業と求職者が結びつくところですね、やっぱり。企業からの問い合わせに始まり、ヒアリングを行い、選考に関わって。求職者の方には自分で自分の障害に関する資料を作ってもらい、現場に受け入れられるためにどうすればいいかを考えてもらって。その先に雇用が生まれるので、報われたという気持ちになることですね(藤本さん)。」

 

「就職が決まると、本人も企業も喜びます。そして、それが私たちの仕事の成果になる。この達成感ですね。最近考えていることは、便利に私たちを使ってほしいなということ。私たちが使われることが、障害者雇用を拡大していく一助となるので(大野さん)。」

 


 

障害者雇用は、働く障害者を主役として捉えることがほとんどですが、受け入れる企業、配慮やマネジメントなどを行う現場、採用や定着をサポートする支援者など、様々な登場人物によって支えられていることは事実です。そして、これは、一般的な採用にはない、手厚い陣容です。
 

働く障害者側が、自分が働くためにどれだけの人が関わっているのかを考えることで、企業に対する責任や仕事に対する意欲を確認することも大切なのではないでしょうか。そして、企業も現場も、困ったことがあれば何でも相談することが重要です。
 

人柄重視の障害者雇用。言われてみると納得で、でも、このコンセプトで採用活動を進めている企業が少ないこともまた事実。障害の有無に関わらず、そもそも採用活動とは?という観点からの気づきが多かった取材となりました。
 

株式会社 綜合キャリアトラスト

本社所在地: 東京都港区浜松町2-4-1 世界貿易センタービルディング8階
主な事業内容: 障害者向け就労移行支援、企業向け障害者雇用支援、アウトソーシング事業
代表取締役: 宮林利彦
会社URL: http://socat.jp/

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この記事を書いた人

Plus-handicap 取材班