従業員の幸福度を追いかける障害者雇用とは?堀江車輌電装さんで働く浦川さんと佐々木さんをインタビュー。

障害者雇用をなぜ行うのか?という問いかけをすると、多くの企業からは法定雇用率を守る必要があるからという回答が多く挙げられます。決して間違いではありませんし、批判することはできません。ただ、もしルールがなかったとしたら、障害者を雇用することはないのか。そんな意地悪な問いを立てたくなってしまいます。
 

今回足を運んだ堀江車輌電装さんは、たまたまの出会いから知的障がい者サッカー日本代表を支援することを選び、その縁もあって、障害者を雇用しています。現場からこぼれてくる言葉を聞くと、従業員の夢や目標を応援する、従業員幸福度を追いかける障害者雇用のモデルが浮かび上がってきました。
 

堀江車輌電装さんの林さん(左)浦川さん(中央)荻野さん(右)


 

仕事とサッカー日本代表の両立を進める浦川さん

 

浦川さんはポリッシャー・高圧洗浄機などの専門機材を使ってビル清掃を行うスペシャリスト。オフィスビルの清掃は、現場の汚れの状況などを見ながら、臨機応変な対応を求められます。言われた指示をこなすのではなく、自分で自分の仕事を判断し決めていく。一緒に清掃活動を行うメンバーと連携する。チームワークが求められる仕事です。
 


 

「きちんと段取りを立てて、その日の自分の仕事を決める。仲間がいる仕事なので、仲間を信頼する。みんなでやる仕事は楽しいです。綺麗になるからやろう、綺麗になったら嬉しい。その繰り返しです。」

 

障害がある/なしに関わらず、仕事にやりがいを持ち、その仕事が楽しいと言えることは、もしかすると今の社会では少数派で、贅沢なことかもしれません。そんな浦川さんのもうひとつの顔は、知的障がい者サッカー日本代表のストライカー。仕事とサッカーの両立も進めています。
 

「知的障がい者サッカーの日本代表として世界と戦いたい。合宿に行きたい、遠征に行きたい。この会社に入ったのもそれが理由。前の仕事もビルの清掃だったけど、シフトに穴が空いたことから、人間関係がうまくいかなくなって。」

 

堀江車輌電装さんは、知的障がい者サッカーを応援している会社でもあります。その縁もあって、浦川さんはここで働いています。
 


 

「うちの会社では、トップ自らサッカー優先でいいと言ってくれています。だから浦川さんには『結果残せよ、結果残さないと価値がないよ』とついつい言っちゃうんですよね。」

 

と笑って話すのは、浦川さんの上司である林さん。インタビューでは、浦川さんにちょっとだけプレッシャーをかけつつも「何でも相談してよ」と明るく語りかけるところに、二人の関係性が垣間見えます。仕事とサッカーの両立をうまくサポートしつつ、仕事での成果を導けるようにマネジメントしています。
 

「清掃の現場に入ると、他のパートナー企業さまのメンバーと仕事することもあるんですが、積極的にその輪の中に溶け込んで仕事をしていくんですよね。初めて一緒の現場に入った方にも自ら指示を出したり、改善提案したり。浦川さんってホントに障害者なんですか?って聞かれることもしばしばです。」

 

林さんの語る浦川さんの評価と同じように、インタビューを行う私たちも、その丁寧な受け答えから障害をもっていることを忘れてしまいそうでした。
 

「仕事も好きだけど、やっぱりサッカーがやりたい。ドイツ大会のときは観客の応援がすごかった。こっちの喋っている声が聞こえなかった。障害者と切り分けてサッカーを見ていなかった。レベルを上げて、来年のワールドカップも頑張りたいです!そのためにも、仕事を一生懸命頑張らないとですね。」

 

林さん(左)佐々木さん(中央)荻野さん(右)


 

働くことが健康管理につながった佐々木さん

 

佐々木さんはアパートを巡回しながら日常清掃を行うスペシャリスト。南青山や新小岩など、1週間で11件のアパートの清掃業務を受け持っています(取材当時)。物件ごとに曜日が決まっていたり、1週間に1回という頻度だけ決まっていたり。上司である林さんと相談しながら、スケジュールを組み立てます。
 

「やることは掃除とゴミの分別。だいたい1時間で終わらせて、次の場所に行く。1日に2,3件やって終わりかな。1件ずつ慣れるまでに時間はかかるけど、今は慣れてきて、早く仕事を終わらせることが楽しい。」

 

入社した当時は週8時間就労。仕事に慣れながら、少しずつ時間が伸びていって、20時間就労になりました。
 

「入社して11キロ痩せた。ちゃんと働くようになってから私服のズボンもダボダボになった。明日現場があるからとビールも飲まなくなった。ここで働くようになって健康になったんだよ。」

 

知的障害があると自分自身の健康管理や仕事のタスク管理がなかなか難しいという印象を持ってしまいがちです。ただ、仕事に行く・汗を流して働く・体に気を遣うといったサイクルを自分の中で回すことで、それが日々の仕事のやりがいにつながっていくのだなと実感しました。
 


 

「佐々木さんのすごいところは報連相。何かあるとすぐに電話をかけてきてくれる。担当するマンションに無断でチラシを投函していると近隣住民から佐々木さんにクレームが来て、私に報告してくれて対応できた。仕事人として、純粋に評価できる。その日の状況を撮影して、メールにコメントを入れてという巡回清掃作業報告書というものがあるんですが、この報告も欠かさないし、ミスもないんですよ。」

 

上司の林さんのフィードバックを聞くだけでも、熱心な仕事ぶりが伝わってきます。実は、佐々木さんも、浦川さんと同じくサッカープレイヤー。野武士ジャパンの一員として活動もしています。年明けにヒザの筋を伸ばし、2月の3連休にはブチッと切ってしまう大ケガを負ってしまったとか。それでも自分のできうる範囲の仕事を行うところが佐々木さんのポリシーです。
 

「仕事で大事にしていることはめげないこと。つらいことがあっても、そこからは逃げない。風邪を引いても休まないし、ケガをしても休まない。休んでいいよって言われても、迷惑かけるし休まない。それが僕です。」

 

林さんは「そこまで言われるとブラック企業って思われちゃうよ」と話していましたが、真面目な人柄が伝わってくるエピソードです。取材中にこちらも「ちゃんと休んでください」と伝えてしまうほどでした。
 


 

取材の終わりがけに「周りにあんまり友達がいないんだよなあ」と佐々木さんがポツリとこぼしていました。これからの障害者雇用は、職場の仲間同士がアフターも仲良く楽しめるような機会を作っていくことも大事なのかもしれません。
 

雇用することに重きを置いた障害者雇用から、楽しく働き、ひとりひとりが活躍できる障害者雇用へ。働き方改革が叫ばれている昨今ですが、それは障害者雇用の世界にも当てはまることです。
 

堀江車輌電装さんの取り組みの価値

 

働く従業員ひとりひとりがもつ、自分自身の夢や目標。浦川さんのようなサッカー日本代表という大きな目標もありますが、子どもの運動会に毎年参加したい、気心の知れた仲間同士で飲んで帰りたいといったささやかな楽しみもあるでしょう。そのひとつひとつを叶えるための取り組みを行うことも企業の役割かもしれません。
 

従業員満足度という言葉がありますが、それは従業員自身が企業に対して満足しているかどうかの指標です。一歩進んだ指標となる、自分自身の夢や目標、楽しみを実現できているかという従業員幸福度を追求する企業が、これからの社会を創っていくのではないか、その一翼を担う取り組みを行っているのが、堀江車輌電装さんじゃないかという印象を強く受けました。
 

障害者雇用を通じて、従業員幸福度を追求する取り組みを行う。これが新しい障害者雇用のカタチのひとつかもしれません。
 

(取材先)
堀江車輌電装株式会社
http://horie-sharyo.co.jp/
 

(Plus-handicap 編集長 佐々木一成)
 

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