産む、産まない。すべての命に付き添う。思いがけない妊娠の相談窓口、にんしんSOS東京の代表中島かおりさんに聞く。

2016年の出生数は103万人から98万人に減っています。一方で、届け出のある中絶件数は18万件。6人に1人が生まれてきていないという事実があります。そして、社会の中には「産みたくても産めない」方もいます。
 

妊娠には社会から目を向けられていない現実がある。一般社団法人「にんしんSOS東京」代表理事の中島かおりさんに話を伺いました。
 


 

「思いがけない妊娠」-「産む」「産まない」は自分で納得した選択を

 

にんしんSOS東京では「思いがけない妊娠」等に関して、電話・メールにて365日16時から24時まで相談を受け付けています。その中で、信頼関係が深まってきた方や、妊娠時期によって緊急性の高い方には、直接お会いしてお話を伺う、一緒に病院へ付き添うなどしています。
 

児童相談所の場合だと1人の担当者が100件ほどの相談を抱えていますが、にんしんSOS東京では1人の相談者に対して、医師・看護師・助産師・社会福祉士などの医療・福祉の専門職がチームを組んで対応しています。
 

団体を設立してから大事にしていることは、思いがけない妊娠をした本人とご家族が孤立しないことです。相談をいただいた時には、自分がどうしたいのかまだ決まっていないこともあります。私たちは、一緒にそこを悩んでいく存在になれればと思っています。産む・産まない、育てる・育てないに関わらず、相談者さんがどうしたいと考えているのか、その意思を尊重したい。相談をきっかけに、新しい情報を得たり、知らなかった社会資源に繋がったりできます。その結果、途中で意思が変わることがあるかもしれない。そんな揺れる気持ちにも寄り添っていける存在になりたいですね。

 

妊娠をきっかけにした問い合わせではありますが、その奥で複数の困りごとを抱えている場合も少なくありません。
 

産後に母子で住むための家を探していたり、産後の子育てに不安を抱えていたりなど、相談者に必要な支援が何なのかを本人と一緒に悩み考え、私たちが中継して他の支援団体に繋げることもあります。育てることがどうしても難しいという方には特別養子縁組という制度があることをお伝えし、専門の団体にお繋ぎすることもあります。相談者の環境を整えることで、「産む・産まない」の自己決定ができるようになることが第一。産後も、相談者自身がどうしたら自立していけるのかを考え、関係機関に繋げていっています。

 

活動を始めたきっかけ―東京に「思いがけない妊娠」の相談窓口がない

 

虐待により、18歳以下の子供が年に50-60人亡くなっています(2014年時)。その中の6割が0歳児。更にその半分は生まれたその日に亡くなっているという現状があります。また、加害者の9割が母親であり、母子手帳未交付、未受診という報告も上がっています。
 

一人ではどうにもならないまま、誰にも相談できず出産を迎え、赤ちゃんを遺棄してしまう。そんな状況の女性やご家族を支えたい。中島さんたちが活動を始めたきっかけでした。
 

実は中島さん自身も「思いがけない妊娠」を経験しています。
 

最初は自分のやりたいことができなくなることや、妊娠への不安もあり、流産しないかなという気持ちまで湧きました。自分自身が受け止めきれないまま切迫流産で入院もしました。実際周囲に話してみると、家族も職場の人も驚いていましたが祝福してくれました。彼もとても喜んでくれましたが、自分自身は戸惑う気持ちをずっと抱えながら妊娠期を過ごし、出産を迎えた気がします。今ではそんなことも普段は思い出すこともなく、産んでよかったと思えているんですけどね。

 

にんしんSOS東京でのミーティングの一コマ

 

社会が「思いがけない妊娠」の人に対して、「虐待する親となるハイリスク群」ととらえることには違和感を感じます。思いがけない妊娠そのものが虐待に繋がるのではなく、思いがけない妊娠をした女性やその家族が、孤立していること、SOSを出せないこと、自己決定できないことこそが、虐待に繋がるのではないでしょうか。

 

たしかに「思いがけない妊娠」という言葉を聞くと、ポジティブなイメージを抱きづらいなという個人的な印象はあります。妊娠した過程に良し悪しを言うように、他者の評価が入ることは有意義ではないですし、このタイミングでの妊娠が望ましいというような風潮もどこか違う気がします。
 

妊娠した瞬間にその先の人生が決まってしまうわけではないですよね。周囲の理解、パートナーや家族のサポートがある人・ない人といますが、妊娠出産を「家族」だけで抱えるのではなくて、「他人」の力を借りてもいいんだと思えたらいいのかなと思います。特別養子縁組により家庭的な養護のもとで子どもを育ててもらうという選択肢もあります。出産や育児に関しては相手があることでもあるので、そもそも思い通りにはいきません。赤ちゃんを宿した時に、その人が、心からその人の選択ができる社会」になってほしいと思うのです。

 


 

相談者は20代以下の若年層が7割を超えるといいます。未婚の場合は「避妊の失敗・避妊をしなかった」「緊急用避妊ピルが欲しい」「妊娠してしまったがどうしたらいいか分からない」という相談が多いそうですが、既婚者であっても相談内容の内訳がほとんど変わりません。
 

「3人目を産みたいけれど、家族のこれからを夫と相談して、やっぱり産めない」という相談はめずらしくありません。これは家計への圧迫が背景にあります。3人目の妊娠に対する国からのサポートがあれば、もしかしたら違う選択ができるかもしれません。

 

また、学校で、妊娠や出産、男女の身体の仕組みなど、性について学ぶ機会が乏しく、何も知らないまま、中学生で性交渉をし、妊娠してしまったらどうしようと不安になって電話をかけてくる子もいるそうです。
 

男性からの相談としては「避妊に失敗したかもしれない」という彼氏からの相談や「娘に彼氏ができたが心配だ」というシングルファザーからの相談があります。避妊用具の付け方や外し方があやふやな方や、いつまで中絶できるのか妊娠周期の数え方が分からないという方もいます。

 

相談者から支援する側へ―ピアサポーターとして関わりたいという声も

 

最近は相談者が、「お世話になったのでピアサポーターとして関わりたい」と言ってくれることがある。そんな話を中島さんは最後にしてくれました。
 

不特定多数の相手と避妊なしで性交渉をしてしまう相談者は、自分を大事にする度合いが低いです。しかし、相談が一旦終了したあともピアサポーターとして私たちと繋がり続けて、今度は「誰かをサポートすること」で「自分も大切な存在なんだ」と改めて気がつくことができ、「誰かの役に立つ」という経験が自己肯定感につながります。「思いがけない妊娠をしない・させない」ために、相談できる仲間がいることで、支えあい協力できるピアサポーターを作っていきたいですね。

 

「思いがけない妊娠」となっても、「産む・産まない」の意思は、環境を整えた上で、本人が納得して選ぶこと。「家族・友達」でなくても「他人」でも良い。適切なサポートがあれば「虐待」には繋がらない。にんしんSOS東京の中島さんたちが寄り添ったサポートを大事にしていることがわかる取材となりました。
 

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この記事を書いた人

村田 望