個人から社会へ。ソーシャルワーカーが起こす社会変革。NPO法人SOCIAL CHANGE AGENCY代表横山北斗さん。

Plus-handicapで記事を書いていると、普段出会わない言葉を耳にすることがよくあります。「ソーシャルワーカー」もそのひとつ。耳にしたことはありこそすれ、具体的にソーシャルワーカーがどんな仕事をするのかは、恥ずかしながらよく知りませんでした。
 

今回お話をうかがったNPO法人Social Change Agency(以下、SCA)代表の横山北斗さんは、社会福祉士として医療現場で働いてきた、まさにソーシャルワーカー。病気や怪我などによって、生活上の困り事を抱えている人たちと向き合い、当事者の方がこれまでの生活を立て直せるようサポートをしてきました。
 

そんな横山さんが、一旦医療現場を離れ3年前に立ち上げたのが前述のNPO法人(当初は任意団体として設立。2015年2月に法人化)。イベントの開催、メールマガジンでの情報発信などを通して、当事者と社会福祉従事者のネットワークをつくり、福祉の現場から社会の変化を生み出そうとしています。
 

今回は、Plus-handicapで脳脊髄液減少症の当事者としてライターを務める重光喬之さんがSCAのイベントに登壇することを受けて、イベントの話をはじめ、ソーシャルワーカーについて、SCAについて、横山さんご自身についてなどいろいろなお話を伺いました。
 

Social Change Agency  代表理事の横山北斗さん
Social Change Agency
代表理事の横山北斗さん

 

「支援する・される」を超えて

 

――今度、重光さんがイベント(SOCIAL ACTION DRINKS VOL.5)に登壇されると聞きました。イベントはどういった目的で行っているんですか?
 

福祉現場で働いている社会福祉従事者の方々と、ご自身の困り事について、ご自身の手で行動を起こして活動されている当事者団体の方々をつなぐきっかけになれば、という思いで開催しています。福祉現場では目の前にいる方をなんとか助けたい、サポートしたいという思いで当事者の方と関わっていますが、当事者の方が日々どういう風に生活されて、どういうことを思っていらっしゃるかを援助の場面以外で知ることが少ないんですね。私たちも当事者の方も同じひとりの人間なわけですから、「支援する・される」という関係ではなく、一人の人間として当事者の方々がどんなことを考えているのか、福祉現場の方たちに知ってもらう機会とすると同時に、新しい取り組みが生まれる場をつくりたいと思って開催しています。
 

――ということは、イベントには現場で働いている社会福祉士従事者の方々と、病気などで困り事を抱えている当事者の方々が参加されるんですね。
 

そうですね。福祉とか医療のお仕事をされている方が8割くらいで、2割は何かしらの障がいを持っていたり、難病と向き合っていらっしゃる方、当事者団体と呼ばれる団体で活動されている方々といった感じです。
 

――イベントでは具体的にどんなことをするんですか。
 

2時間程度のイベントですが、前半1時間くらいはゲストの当事者の方にお話していただきます。今何をやってらっしゃるか、そもそもどういう思いや考えで活動を始められたのか、活動をされるなかで今どういうふうに思ってらっしゃるか…などですね。ゲストの方によっては、福祉現場で働いている人に伝えたいことをお話いただいたりもします。みなさん、せっかく参加したからには同業者、当事者同士でお話したいという希望があるので、後半は交流会のような形で自由にお話していただいています。
 

過去のSOCIAL ACTION DRINKSの様子
過去のSOCIAL ACTION DRINKSの様子

 

――今までに登壇されたのはどのような方々なのでしょうか。
 

統合失調症の当事者の方で、日本中の障がい者団体を束ねて政策提言などを行っている認定NPO法人DPI日本会議の職員の方や、同じ難病のお子さんを抱えている親御さんたちの団体の代表の方をお呼びしました。6月24日に開催された第4回にはご両親に聴覚障害があるお子さんたちの会の方をお呼びしました。
 

――それに続く第5回に重光さんが登壇されるわけですね。生活上の困り事を抱えた方々と、職場で出会うのとイベントで出会うのは何が違いますか?
 

病気や障がいを抱えていらっしゃる方でも、就労されている方もいれば、アクティブに外に発信している方、重光さんみたいに起業している方もいらっしゃいます。私も医療現場にいるときにそうだったのですが、例えば、現場で当事者の方と出会うのは、週に1回、1時間程度なんですね。当事者の方を「球体」で捉えたとすると、1回の面談で捉えられるのは、本当に一側面でしかないわけです。生活上の困り事を抱えているという非日常的な場面で出会うので、その方の一部分しか見られないのは当然なんですけど、どうしても想像力が阻まれてしまうというか。その方の思いや日々の生活をイベントを通して考えてみてもらうことで、現場に戻って当事者の方に向き合ったときに、その方を理解するヒントになれば、という思いもありますね。
 

――イベントに参加した福祉現場の人からはどんな感想がありますか。
 

いろんな感想を寄せてくださいますが、当事者の方の声や体験こそが、社会の構造に働きかける「ソーシャルアクション」につながると分かった、という声があります。たとえば、私が病気で入院したとして、制度の弊害で医療費が安くなる制度を利用できなかったとしますよね。すると、困っているのに制度の狭間で援助を受けられないのはおかしいんじゃないかという風に、個人を支えることを通じて社会の構造上の問題に気づくわけです。そういった問題に対してアプローチしていくことをソーシャルアクションと言ったりするんですけれども。
 

20160710③
 

SCAの原点は学生時代

 

――そもそも、医療現場を離れてNPOを立ち上げようと思ったきっかけはなんだったのでしょう?
 

それは学生時代の経験がベースになっているんですが、私は14歳のときに小児がんに罹患しまして、1〜2年半くらい闘病して、骨髄移植を受けてなんとか社会に復帰したというライフストーリーがあります。日本全国の小児科の病院では、病棟に感染症を持ち込むリスクがあるからと、小さいお子さんを病棟に入れられないところがとても多いんです。ですので、ご両親と一緒に面会に来たきょうだいのお子さんだけ外で一人待っているような状況なんですね。私にも3歳下の弟がいますが、私が入院しているとき、彼がまさにそういう体験をしています。そういった状況が、私が退院して4〜5年経ち、大学に入学した頃もまだ変わっていないことを知り、そうしたごきょうだいのお子さんを学生たちでお預かりして遊び相手をするという団体を20歳のときに立ち上げて、卒業までの3年ほどボランティアで活動を続けました。
 

当時、同じような取り組みをしている病院は少なかったんです。かといって、私たちは学生で能力も資源も限られているから、自分たちだけですべてを行うのは難しい。ならば、自分たちの活動を何かしらの形で発信することで、きょうだいへの支援に目を向けてくれる人を増やそうと思ったんです。当時知り合った新聞記者の方が記事にしてくださって、他の病院でも同様の活動がはじまったりして。つまり、目の前にいる方のサポートはとても大事なんですが、そこから聞かれた声や、サービスを提供している私たちが抱いた問題意識を、広く社会に発信して知ってもらわないことには、そもそも考えてもらうことすらできないということを、学生のときにすごく学ばせていただいたんですよね。
 

20160710④
 

――学生時代の学びが、SCA立ち上げの原点なんですね。
 

ソーシャルワーカーの仕事に就くと決めたときも、目の前にいる方へのサポートと社会への発信の両方をできる職業人になりたいと思って現場に入ったのですが、いざ現場に入ると、目の前の方の支援に精一杯という状況が長く続きまして。ようやく5年目頃から、ソーシャルワーカーのあるべき姿を考える余裕が少し出てきました。
 

ちょうどその頃、私が関わった数人の患者さんが、みなさん同じようなケースだったということがあったんです。リーマン・ショックで会社の業績が傾いて失職されて、もともとご親族やご友人との関係が良好でなく、なかなか再就職できずにお金がなくなって、アパートを出ていろいろなところを転々として、ネットカフェに辿りついて、ワンコールワーカー、つまり携帯電話で日雇い派遣に行っている。ですが、保険証やお金がないために、体調が悪くても病院に行かない、受診控えをしていた方たちが派遣労働の現場で倒れて救急車で運ばれてくる。そのような経過をたどる方たちが同時期に数人いらっしゃいました。
 

私は、その方々の生活の立て直しを入院中にサポートさせていただいたんですけれども、倒れて救急車で運ばれてくる手前の、もっと上流のところでソーシャルワーカーとしてできることはなかったのかなと、その時すごく疑問に思ったんですね。たとえばネットカフェのトイレに制度のパンフレットを置いておくとか、いろんな施策やアイディアがあったと思うんですけど、病院にいながらそれをやろうとなると、なかなか難しかったんです。ビッグイシューさんが「路上生活脱出ガイド」を作って、ネットカフェや図書館に設置されていますけれど。
 

そのとき、学生の頃に感じた、目の前にいる方へのサポートとそこで聞いた声や気づいたことを社会に発信すること。もしくは、自分の目の前にいる患者さんやご家族がここに来ないためにはどうすれば良かったのかという視点で、社会の仕組みやその方の環境に働きかけることがやはり必要だということに、あらためて気づかせてもらったんです。
 

――学生時代に感じられた情報発信の必要性を、ソーシャルワーカーになってあらためて感じられたと。
 

そうですね。学生時代の思いとリンクして、ものすごく葛藤を抱えるようになりました。その葛藤が、雇われの身から離れていろいろやってみようと思った一番大きなきっかけだったかなという風に思います。
 

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ソーシャルワーカーとは

 

――法人としては、イベントの開催以外にどんなことをやられていますか。
 

社会福祉従事者の方向けの研修や、メールマガジンでの情報発信です。メルマガでは、福祉系の仕事に就いている方たちの現場実践で気づかれたこと、海外の大学院で社会福祉を学ばれている方の留学記、イベントにお呼びした当事者の方々の日々の気づきなど、何かしら福祉に文脈があって、自分の知見や問題意識を他者と共有したいという方々に書き手になっていただいています。あと、ソーシャルワーカーを対象にした研修や、他団体からの委託事業を行っています。
 

――お話をうかがって、横山さんは常にソーシャルワーカーのあるべき姿を追求しているように感じましたが、ソーシャルワーカーとは社会においてどういう存在か、横山さんのお考えをお聞かせ願えますか。
 

ソーシャルワーカーは、生活上の困り事を抱えている方の近くにいる可能性が高い職業ですので、社会の構造変化、構造のゆがみによって生じている問題に本来気づきやすいポジションにいる人たちだと思うんですよね。だからこそ、目の前にいる方を支えることを通じて、社会に目を向け、必要があれば社会の構造、構造って抽象的な言葉なので、具体的な落とし所はたくさんあると思うんですけど、その構造にちゃんと働きかけていく。そういう職業であってほしい、あるべきだって思います。私もまだ道の途中ですけれども。
 

――ソーシャルワーカーは、目の前にいる方を通して社会が見えてくるお仕事なんですね。非常に重要なお仕事だということが分かりました。ソーシャルワーカーの方々には、現場で聞いた声や、問題意識などを広く共有していただきたいですし、その際にSCAのイベントやツールを活用していただきたいと感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
 

こちらこそ、ありがとうございました。
 

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Social Action Drinks vol.5
日時 : 7/29(金) 19:30〜21:30
場所 : 渋谷 Connecting The Dots 4F (渋谷のアップルストアのすぐ近く)
参加費 : 一般2500円、学生2000円(ドリンク1杯と軽食込の値段です)
定員 : 20名 (先着順)
詳細・申込:http://social-change-agency.com/archives/3873

 

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この記事を書いた人

木村奈緒

1988年生まれ。上智大学文学部新聞学科でジャーナリズムを専攻。大卒後メーカー勤務等を経て、現在は美学校やプラスハンディキャップで運営を手伝う傍ら、フリーランスとして文章執筆やイベント企画などを行う。美術家やノンフィクション作家に焦点をあてたイベント「〜ナイト」や、2005年に発生したJR福知山線脱線事故に関する展覧会「わたしたちのJR福知山線脱線事故ー事故から10年」展などを企画。行き当たりばったりで生きています。