当事者と非当事者が受容し合う意味。ードキュメンタリー映画「ちづる」上映会&トークイベントレポートー

2015年11月7日(土)Plus-handicapの映画上映イベント「Plus-handicap Theater」の栄えある第一回目として、ドキュメンタリー映画「ちづる」の上映会とトークイベントを行いました。本当にお客さんがちゃんと来てくれるのかやきもきしたりもしましたが、おかげさまで会場は超満員。ご来場頂きました皆様、ありがとうございました。
 

当日は、重度の知的障害と自閉症をもった妹・千鶴とその母の1年間を追ったドキュメンタリー映画である「ちづる」の上映と、「ちづる」の監督を務めた赤﨑正和さん、重度の知的障害を伴う自閉症と診断された兄と弟との間に育ち、誰もが包摂される学びの環境づくりを実践することを目的としたNPO法人Collableの代表である山田小百合さんを招いたトークセッションを開催しました。
 

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今回、プログラムディレクターを務めさせて頂きましたが、「ちづる」の上映を提案した際に二つ返事で「いいんじゃないですか!」と言って下さった佐々木編集長の懐の深さに感銘を受けつつ、このような企画を任せて頂けたことをとても感謝しています。
 

思い返せば、Plus-handicapのことを初めて知ったのはちょうど1年前の今頃。「ちづる」を初めて観たのは4年前で、NPO法人Collableの山田さんと知り合ったのは6年前ですから、これまでの出会いがこういう縁で結びついたというのは感慨深いものがあります。
 

私自身、自閉症や知的障害に対して特別興味があるわけではなく、身近に似たような障害をもつひとが居る訳でもありません。「ちづる」を初めて観た当時も「ふーん。」という感じで、山田さんがNPOで障害児向けの何かをやっていると知った当時も「ふーん。」という感じでした。それでも、Plus-handicapという舞台の上でこの両者、そして佐々木編集長が出会うことで何かしらの化学反応が生まれることは、絶対に面白い!と確信的に思っていたことでもあります。
 

トークセッションの様子
トークセッションの様子

 

私が本格的にPlus-handicapに関わり始めたのは今年の春先。ちょうど、その頃に公開された編集長のコラムにこういう一文があります。
 

生きづらさを抱える方々の心の叫びは、SNSやブログなどで見かけます。Plus-handicapにいただく問い合わせ、イベントでのお話などで直接知ることもできます。しかし、残念なことに、心の叫びを受け取ることはできても、分かる・理解するといったことは他者にはできません。

 
             
出典:「辛い、しんどい、苦しいという感情は他者には分かるわけがない。」
//plus-handicap.com/2015/02/4868/
 

この記事は、編集長の記事の中でも個人的に印象深いものです。震災後にドキュメンタリー映画制作のため被災地に入り、被災者へのインタビュー取材を行っていた私としては、尚更深く考えさせられるものでした。災害復旧ボランティアを主に取材していたのですが、私を含め外部から来た人間には、被災者の苦しみを、解ろうとしても解ることが出来ません。「非当事者」という立場を痛烈に感じざるを得ない状態に立ち会った時に、当事者とどう関わったらいいのか解らないというジレンマを抱えたことがPlus-handicapに関わるきっかけにもなっています。
 

私自身、視覚に障害のあるひとりの人間。障害者という点では、私は「当事者」という立場に居ることはできます。震災前までは「障害」というテーマにも殆ど興味を持ってはいませんでしたが、「当事者と非当事者の関係」を考えることによって、「障害」についても興味を持ち始めたように思います。今回の上映会をやるにあたっても「当事者と非当事者の関係」は避けては通れないテーマだなと感じていました。
 

ドキュメンタリー映画には、問題意識を掲げ、提起するもの、当事者が自分語りをするものなど様々なものがありますが、「ちづる」を上映しようと思ったのは、そこに「ひと」が居るドキュメンタリーだと思ったからです。監督の赤崎さんのインタビューに下記のような一文があります。
 

家族じゃないひとであっても小さい頃から一緒にいれば普通に一緒にいられると思うんです。発達障害が何なのかよく判らなくても、一緒にいようと思えばいられるし、単純に、色々なひとが普通にいる世の中の方が自分は楽しいと思います。

 
                     
出典:「自閉症の妹が、僕に教えてくれたこと。」
//plus-handicap.com/2015/10/6789/
 

また、山田さんのインタビューではもっとはっきりと「当事者と非当事者の関係」について言及されています。
 

「障害者はこれだけ苦労しています」「障害のあるひとに優しくしましょう」みたいな、ある種一方的なメッセージを発信してしまいがちで、それでは当事者ではないひとが理解出来ないのは当然だと思います。

 

支援する側・される側という福祉的態度を前提とした人間関係でしか障害者を捉えられなくなってしまう。障害者のコミュニティやムラ的なものに入ってあげるという関係、外からひとが入っただけという状況を変えないといけないと思いました。

 

出典:「障害児と健常児の人間関係づくりから見えてくること。」
//plus-handicap.com/2015/11/6804/
 

「ちづる」は決して何かの理解を促すような映画ではありません。そして、人間同士の関係は、決して理解を前提として成立するものではないと私は思います。
 

赤崎さんの言葉には共感する所がありましたし、山田さんの言葉もまた、センシティブな事柄を論理的に語っていて、納得する部分が多くありました。今回のイベントのトークセッションでも、当事者属性に囚われない、フランクで、人間味あるお話を、お二人からお聴きすることが出来、僕が思った以上に楽しい時間を過ごすことが出来ました。
 

右から、佐々木編集長。山田さん。赤崎監督。渾身のドヤ顔の私。
右から、佐々木編集長。山田さん。赤崎監督。渾身のドヤ顔の私。

 

「理解されるかされないかより、理解されようとしているかしていないかの方が大切」だと私は思います。
 

今回のイベントには、自閉症や知的障害者と日常的に接している人だけではなく、普段かかわりをあまり持たないという方もいらっしゃいました。そして私自身も先にも言及した通り、私は自閉症、知的障害の当事者でもなければ、当事者が周りに居る訳でもありません。論理的に解釈するならば、今回のイベントで当事者の気持ちが理解できた訳でもないでしょう。
 

それでも「ほんの少しだけでも共感できるかもしれない」という微かな期待。そして「決して理解出来なくてもいい」という安堵感は持つことが出来たのではないかと思います。それは、当事者と非当事者が受容し合った、もっと解りやすく言えば、関係したということなのかなと、個人的に思います。誰かと表面的じゃない関係を持つということは、すごく心震えるものなのだと、今回のイベントで実感しました。
 

改めまして、今回イベントにご参加頂きました皆様、お手伝い頂きましたスタッフの皆様。ゲストにお越し頂きました赤崎さん、山田さん。ありがとうございました。
 

(最後に:開催したイベントの詳細)
 

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Plus-handicap Theater #1
ドキュメンタリー映画「ちづる」上映会&トークイベント
ー障害者と、その家族との向き合い方を考えるー
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開催日時:11月7日(土)14時半〜17時
開催場所:3331 Arts Chiyoda B105マルチスペース
 

当日の流れ:
・障害者とその家族というテーマでの話題提起
・『ちづる』上映会(本編79分)
・トークセッション
・質疑応答
 

トークゲスト:
ドキュメンタリー映画「ちづる」監督:赤﨑正和
NPO法人 Collable 代表理事:山田小百合
当日のモデレーター:佐々木 一成(Plus-handicap編集長)
 

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この記事を書いた人

吉本涼