薬とうまく付き合うことから得られたもの。HIVとの10年。

うかつにも半年ほど記事が空いてしまいました。仕事がやたら忙しかったり、合間をぬって障害者とかヘルスケアとかLGBT関連のことをやっていたり。また、最近だとブラインドサッカーの応援に通ったりしておりました。リオデジャネイロでのパラリンピック出場まであと一歩という結果は悔しい気持ちになりました。
 

気がつけばあと3ヶ月足らずで12月1日の世界エイズデーです。今年の世界エイズデーのキャンペーンテーマは「AIDS IS NOT OVER だから、ここから」だそうです。詳しくはウェブサイト「Community Action on AIDS」で紹介されています。
 

20150911①
 

半年という期間の中で、僕個人のHIV関連での大きな変化といえば、薬が変わりました。薬を変えるのは2回目です。正確に言えば、違う成分の薬になったわけではなく、合剤となって1日1回1錠という状況になりました。HIVの薬は、かつては飲んでもすぐに薬剤耐性ができてしまって効かなくなるという状況でしたが、複数の効きかたをする薬を一緒に飲むことで耐性ができにくいようにする、一緒に飲んでいた薬をひとつにまとめるというような状況が生まれてきており、日々進歩を感じています。
 

僕の最初の薬の変更は、今思い出すと、「もうしばらくは同じ薬でも大丈夫だけれど、血中の中性脂肪やコレステロールや尿酸の値を見たところ、体調いいうちに変えといたほうがいいんじゃないか」というようなノリで変更しました。ノリで変更というと軽すぎて怒られそうですが、患者生活も長くなってくると、いろいろと病気に関する知識も身につきますし、他の陽性者の人が診察のときに言われた血管系の疾患リスクの話など教えてもらっていたので、迷い無く決断したことを覚えています。
 

「飲める薬のパターンが減らないようにできるだけ薬を変えない」から「服薬生活を維持できるようにできるだけ飲みやすく、本人の体質やHIV以外の持病などを考慮してリスクの少ない薬を選択する」ようになりました。かつてのイメージのためか、耐性のせいで仕方なく薬を変更し続けて、効果がある組み合わせが切れたらジ・エンドのように思っていらっしゃる方もまだまだいるようですが、もはやそんな時代ではなくなりました。
 

今はそれぞれの数値が高止まり気味なので、高脂血症と高コレステロール血症の薬も一緒に飲んでいます。1日1回1錠の薬になったと先ほどは言ったものの、正確には1日2回で片方が3錠、もう1回は高脂血症の薬だけ1錠という感じの服薬治療を続けています。
 

こんな服薬生活をしていると、たまに薬漬けと言われることがあります。事実だけ見るとそうかもしれませんが、服薬による効果をデータとして把握していますし、納得したうえで選択しています。実際、血液検査で異常値が出るから飲んでいるわけで、その治療にはまじめに取り組まなければなりません。ただ、この異常値は抗HIV薬の副作用であって、乱れた食事とかが原因ではありません。とは言っても、僕自身、暴飲暴食は控えています。
 

20150911②
 

僕がHIV陽性者であることを知らない、かつカムアウトするつもりのない職場関係者から薬について問われたときは、中性脂肪とコレステロールの薬をパッケージごと見せています。「生活習慣病外来でいろいろとね・・」みたいな雰囲気を醸し出すと、確実に納得してもらえます。一人くらい「えっ、その体型でそんな薬飲まなきゃいけない状況なの?」みたいなリアクションがあってもいいんじゃないかと思うのですが、これまでのところ全員無言で納得している様子なので(それはそれで若干不満だったりしますが)うまくやりすごせている感があります。
 

ただ、このやりすごせているという事実は、言い方・見せ方でごまかせるようになったということなのだと思います。ある意味、HIVについての知識の中で、古いほうの間違ったイメージを利用しているところがあるのですが、必要悪のように割り切って使っています。また、薬のパッケージを見せる行為を続けていたら、無理にお酒に誘われたりすることがなくなる副次的な効果もあり、転職した後の新しい職場でも続けています。こういう「生活の知恵」的なものの蓄積も、病を抱えるときには本当に大事だなと思うわけです。
 

20150911③
 

現在の医学では完治しない病気を抱えてみて実感するのは、健康上の問題というのは重なり合うものであって、ひとつひとつは極端に重篤ではなくても重なり合うことによってきわめて面倒な事態を引き起こす、ということです。治療が良くなってHIV感染を軽く考えている人も時折いると聞きますが、積み重なる健康問題は少ないほうが良いという基本に立ち返ってみて考えてほしいところです。
 

生活習慣病などはすでに合併例の学会報告などたくさんあり、僕なりのポイントとしては強い薬である抗HIV薬を飲み続けられる健康状態を維持できるかどうかが大事だと思っています。これは本当に日々注意するしかありません。
 

そしてHIV感染症はまだ歴史が浅い病気なので、もしかすると重なった別の疾病や病気によっては、HIVとの同時治療の先例が無いかもしれません。あるいは、今飲んでいる薬と一緒に飲むことが禁忌とされている薬でなければ、治療できないかもしれません。新しい感染症のニュースなどを見るたびに「これHIVと被ったらどうなるんだろうなぁ」という目で見てしまいます。
 

とはいえ、悲観的になっているかというと決してそういうこともありません。
 

感染がわかって10年が過ぎましたが、とにかく調べる、主治医に聞くなど、自分の中で「わからない」で立ち止まらないことを覚えたことがこの10年間で最大の収穫だったと思います。自分が直面していることは医学的にどうなのか、どうすればうまくいくのか、その工夫を続けることは一定の労力を必要としますが、そんなロジックで物を考える習慣は、病気と向き合うだけでなくて、仕事やその他いろいろな場面で役に立つように思います。病気が教えてくれたより良い暮らしのヒント、みたいなものと言えるのではないでしょうか。
 

12月1日のエイズデーに向け、僕だけではなくHIVと関わる様々な人の話を聞く機会が多く設定されています。ぜひお時間ありましたらそうしたイベントなどに参加していただければと思います。私自身も、最近のHIVをめぐる話題やHIVと過ごした10年の話などをサイエンスカフェさんでさせていただくことになり、半年ぶりの原稿を告知で終えたいと思います。
 

HIVかふぇ2015
日時:9月27日(日)14時〜16時
場所:リハビリセンターあしすと(荒川区東日暮里1-16-1モンシェール三ノ輪1B)
参加費:1,000円
http://lcafe.blogspot.jp/2015/08/hiv2015.html

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この記事を書いた人

桜沢良仁