児童養護施設の子供たちが夢を語る「カナエールスピーチコンテスト」を見た率直な感想

児童養護施設を退所する若者たちの自立支援を行う認定NPO法人ブリッジフォースマイルの取り組みのひとつである、夢スピーチコンテスト「カナエールin横浜」に参加してきました。
 

児童養護施設の社会的背景やカナエールスピーチコンテストについては、以前、編集長・佐々木が書いた記事がありますので、詳細はそちらをご覧ください。
 

参考記事:
簡単に夢なんて語れない、児童養護施設退所者の進学格差、希望格差とは?
夢、カナエール。児童養護施設からの挑戦。
 

端的に説明すると、両親との死別や育児放棄、虐待などの理由で、児童養護施設に入所している子供たちがいます。その数は、日本全国で約2万9千人。そして、18歳の高校卒業とともに児童養護施設を退所しなければならないことになっています。今年はおよそ1,800人が退所すると発表されました。
 

 

彼らには、これから先の人生をすべて自分一人で生きていかねばらならない現実が待っています。せっかく大学への進学が出来ても、アルバイトをして生活費と学費を稼がねばならない日々に挫け、中退してしまう若者の割合が、親が健在な家庭(実家暮らし・一人暮らし双方)から通う若者の数倍に及びます。そんな現実を受け、ブリッジフォースマイルは児童養護施設の子供たちの自立支援を行っており、その一環として、スピーチコンテストを開催しているのです。
 

コンテストの内容としては、カナエルンジャーと呼ばれる児童養護施設出身の若者たちが、自らの夢を語り、審査委員・来場者の審査を受け、賞金(奨学金)が授与される仕組みです。そのお金を少しでも、夢をかなえるための生活費・学費に充ててもらおうというのが狙いです。
 

基本的には、運営スタッフや来場者の大半は、若者支援などに興味・関心を持った方々です。ただ、今回、私は予備知識0で向かいました。「両親がいない」ことで様々なハンディキャップを抱える若者たちのスピーチコンテストに対して、同情的な先入観を持たず、冷静な記事を書きたいと思ったからです。
 

カナエールは横浜だけでなく、東京・福岡の計3拠点で開催されました。 プライバシー保護の観点から会場内の写真は撮影できませんでした。
カナエールは横浜だけでなく、東京・福岡の計3拠点で開催されました。
会場内の撮影はできません。理由について、一度、皆さんに想像してみてほしいです。

 

1. 意欲と能力がとても高いカナエルンジャーたち
 

社会人生活の中でスピーチやプレゼンテーションなどをよく見慣れていることもあって、20歳前後の若者が、と正直クオリティにあまり期待をしていなかったのですが、彼/彼女らのレベルの高いスピーチに驚いてしまいました。この若さで、これだけ力強く堂々と自分の夢について語れること、ただただ関心いたしました。
 

大人だって、自分のことをちゃんと話して表現できる人は少ないと思います。もちろん、専門のスピーチトレーナーのもとで、ちゃんとしたトレーニングを行ったのでしょうが、彼/彼女らの原動力は、自分たちの育ってきた厳しい境遇の中で、それでも本気で夢を叶えたい、という気持ちから生まれてくるのでしょう。本当に、意欲や能力の高さを感じました。
 

2.だからこそ、もっと大きな世界も見てほしい
 

彼/彼女らの堂々としたスピーチを感心して聞く一方で、その内容に対して、ある種の「狭さ」を感じてしまったことが正直な感想です。10人中6人が、(児童養護施設の)職員や保育士などの福祉系の仕事を夢に挙げていました。他の数人も、直接的ではないにしろ、同じ方向性の夢を挙げていました。
 

職業に貴賤はありませんし、苦しい経験を乗り越えてきた当事者であるから分かり合える部分はあると思います。ただ、彼/彼女らが本当に成長する意味では、自分の生い立ちとは全然違った夢を追いかけてみることもありなのではないか、と個人的には感じました。福祉系の仕事に就くのは、その後からでも遅くはないようにも思います。もっとも、この問題は、彼/彼女らの視野の広さに原因があるのではなく、そうした世界と出会う機会が少ない社会側に責任があるように感じます。
 

3.意欲や能力が高い児童養護施設の若者たちに対して、無関心な現代日本
 

ごく最近まで、児童養護施設出身者の存在とその問題点に気づいていない自分に対する自戒を込めて書きますが、次の3点の疑問や課題を感じました。
 

Ⅰ.そもそも18歳(高校卒業)のタイミングで、施設を退所しなければならない理由はどこにあるのでしょうか?児童福祉法によって「原則18歳までが(児童の)保護期間」となっていることが理由で18歳で退所しなければならないそうですが、今の社会に適合しているのでしょうか。
 

Ⅱ.大学全入時代が始まり、私大・短大などの約半数は定員割れを起こしていると言われる、いわば「大学余り」の時代に、大学に通いたくても通えない若者たちがいる。直接の関係性はないかもしれませんが、大きな矛盾を感じます。
 

Ⅲ.先日、閣議決定された政府の成長戦略の骨子案の一つに、少子高齢化社会を迎えるにあたっての「移民政策」があります。もちろんそれは大事なことだと思います。児童養護施設の子供たちは、2万9千人と日本の人口の全体数からみたら、決して多くない数かもしれませんが、まだまだ日本には意欲や能力の高い若者がいるわけです。そんな彼・彼女らの将来に対して投資をせずに、移民受け入れが先になるのはいかがなものでしょうか?
 

以上の3つだけでも、社会の構造を変えていくべきなのではないかと感じました。もちろん、我々ひとりひとりが行えることもあると思います。自分たちでできることを見つけ、行動を起こしていくことで、日本全体がもっと豊かになっていくのかもしれません。
 

4.私たちができること
 

関心をもつということが原点にあると考えます。世の中には自分が知らない世界があるのだと考え、知るだけでいいのだと思います。その先の行動(ボランティア・募金・シェア等)は個人の裁量。行動を起こすも起こさないも個人の判断ですし、そこに批判するつもりはありません。私の場合は、募金から始めたいと思いますし、永続的にその活動ができるよう、普段の仕事にもしっかり取り組もうとあらためて感じています。
 

ここまで書いた上で、ひとつ告白をしたいと思います。
 

彼/彼女らのスピーチを聞きながら、正直、その過酷な人生に対して分かりきれない自分がいることを感じました。少なくとも自分は、幸いなことに両親が健在の中で育ってきました。したがって、「自分に両親がいなかったら」という想像はできません。
 

これは障害者の問題にも共通しています。例えば、足がない(歩けない)・目が見えない・耳が聞こえないといったことを想像してみてくださいと言われても、無理だと思うのです。私も右足義足・左耳聴力0の障害者ですが、自分の障害以外の障害を持つ障害者の方の気持ちはあまりわかりません。
 

家庭環境に問題がある・障害がある等といったハンデをもつひとの気持ちは、当事者以外が理解するのは難しい部分があると私は思います。もしかしたら、同じように考えている方もいらっしゃるかもしれません。
 

しかし、人間が誰しも根源的に持っているであろう「夢を叶えたい。より良い人生を生きたい。」という気持ちは、分かるつもりです。私自身も、夢を叶えて、より良い人生を生きたいと考えているひとりだからこそ、児童養護施設の子供たちの夢の実現を応援していきたいですし、そういう大人でありたいと思うのです。
 

カナエールスピーチコンテストは、本当に多くのスタッフによって運営されていました。最後に、その中のお二人のコメントを紹介したいと思います。
 

今回、初めてカナエールの運営に関わりました。とても大きなプロジェクトで、たくさんの人との関わりがありました。人と人が本気で接することで、「気付いて変化して成長する」様子がそこかしこにあり、それがスピーチするカナエルンジャーたちにも影響したように感じています。結果、若者たちの素晴らしいスピーチを生み出すことに貢献できたのではないかと思っています。この要素は、今後もプロジェクトが広がっていく期待感を高めているように思います。

 

カナエールに関わってみて感じるのは、自分ができることはほんのわずかである、ということ。でも、この活動を通して頑張っている若者たちを見ると、わずかでもできることをしたいと思った。未来を背負う若者に、夢をあきらめないでほしい。そして、もっとたくさんの人に、特に20-30代の人たちにこのボランティアに関わって欲しい、と思う。

 

スタッフの方との記念写真。
スタッフの方との記念写真。

 

カナエールの問い合わせ先:http://www.canayell.jp

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この記事を書いた人

堀雄太

野球少年だった小学4年生の11月「骨腫瘍」と診断され、生きるために右足を切断する。幼少期の発熱の影響で左耳の聴力はゼロ。27歳の時には、脳出血を発症する。過去勤めていた会社は過酷な職場環境であり、また前職では障害が理由で仕事を干されたことがあるなど、数多くの「生きづらさ」を経験している。「自分自身=後天性障害者」の視点で、記事を書いていきたいと意気込む。