両目、8万円。プチ整形で得たもの。

ある朝起きたら左目が二重になっていました。生まれてこのかた細~い一重のネコ目だったはずなんですが、その日から左目だけは一重に戻ることもなくパッチリした二重になってしまったのです。
 

「右目が一重で左目が二重なんて『太陽の季節』に出てくるヒロインみたい~」とはしゃいでいたのもつかの間。メイクをしてもアイプチをしても左目と右目の大きさの違いは歴然で、左右の目のアンバランスさをわたしは次第ににくむようになっていきました。
 

「両目、8万円…」写真1
 

美容整形外科で手術を受ける

 

品川にある某美容整形外科の入口をくぐったのはそれから半年後。受付を済ませると茶髪のきれいなお姉さんが出てきて「二重整形ですか~?〝埋没”でしたら両目で8万円。今日すぐに手術できますよ~。」と歌うような声で言いました。
 

「やります」
 

考える前に声が出ていました。財布には銀行から下ろしたばかりの10万円がつっこんでありました。親から生活費としてもらった大事な10万円です。お父さんもお母さんもわざわざ東京の大学にやった娘がまさか今頃プチ整形しているとは思わないだろうな~。ごめんねお父さんお母さん。でも、顔にメスを入れるわけじゃないし、糸でまぶたを留めるだけ。わたし、左右対称な目になりたいんだ。そう思いながら手術室に向かいました。
 

手術台に寝そべるとナースがそっと酸素マスクのようなものをつけてくれました。ドラマの手術シーンなんかでよく出てくるアレです。手術というものを受けるのは、わたしにはそれが初めてでした。マスクから出される笑気ガスを吸って、だんだんお酒に酔っているような、ふわふわした気持ちになっていきます。緑色のオペ着を着た執刀医が手術室に入ってきました。色黒でハンサムな男性執刀医です。
 

手術内容は「まぶたの脂肪吸引」と「2点埋没法」。手術の恐怖と笑気ガスの気持ちよさから思わず放った「こわいよ~こわいよ~でも信じてますぅ~」という言葉がまるで自分の声じゃないみたいに手術室に響いていたのを覚えています。

「両目、8万円…」写真2
 

まぶたの違和感、再手術

 

手術から二年がたって、モナ・リザのような完璧な二重を手に入れたはずのわたしは悩みを抱えるようになっていました。当初幅広くしすぎたのではと危惧した二重の幅は、時が経つにつれ驚くほどのスピードで縮まっていき、ついに左目は奥二重になってしまったのです。それに、なんとなく目が引っ張られているような、まぶたの違和感を感じるようになっていました。痛いほど目が渇くこともありました。「これは、目を留めている糸がだんだん縮まってきたせいに違いない。こんなに違和感があるならプチ整形なんかしなければよかった!」わたしは目をプチ整形したことで圧倒的にモテるようになったことを忘れて心の中で叫びました。
 

「なんも異常はないんすけどね~」、二年前にわたしの目を二重にしたイケメン執刀医は、わたしのまぶたをひっくり返しながら言いました。「でも目は乾くし痛いしひきつるし左目は奥二重になっちゃったしもうイヤなんです!もう元に戻したいんです!!!」。わたしが主張すると執刀医は少しうんざりしたような顔を浮かべました。そして「二年経ってるからどこまで元通りになるかわからないけど、抜糸はできますよ」と言いました。「二重にする人ね、ほとんどがしばらくすると元に戻したいっていうんですよ」。ちょっとイライラしたような、さみしげな表情を執刀医は浮かべていました。
 

かくしてわたしは再手術を受けました。まぶたを留めていた糸を抜き、目はほどなくして元通り(左目は二重、右目は一重)になりました。完全に元通りかというと、そんなことはなくて、右目は二重にしていたころの跡がついてちょっぴり三重っぽくなっているんですけどね。相変わらずアンバランスな顔ですが、もうこの顔でいいんじゃないかと思えるようになっていました。
 

もう「中の中」くらいの顔でいいじゃないか

 

両目で8万円。体を張った「勉強料」にしては高かったのかもしれません。昔から男っぽい、愛嬌のない自分の顔があんまり好きではありませんでした。
 

でも、「整形」は思っていたほどうまくいくものでもないらしい。特別「ブサイク」でもないし、「美人」でもない、「中の中」くらいの自分の顔。男っぽい顔つきで、ネコ目で、鼻が低い自分の顔。この顔を精一杯活かしていくのがいいんじゃないか。そんなことにようやく気付いた22の春の話でした。
 

もし整形しようかな~と思っている人がいたら、ちょっと立ち止まってみてください。自分の顔って、よく見ると案外かわいいものですよ。
 

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この記事を書いた人

田中 さくら

平成生まれ、ゆとり教育をふんだんに受けて育つ。四国出身。東大卒。現在は主婦。メンタルと肌の弱さが悩み。