新しい義足ができるまで① 義足作りとスーツ作りは似ています。

マスターカード

 
「判定と同じ義足でいいならばすぐに作り始められますよ。」
 

この一言は少し私の神経を逆撫でるような言葉。
ただ次の一瞬、すべては覆る。
 

「ただ、そもそも、私には、なぜその義足・装具なのか分からない。
 例えば、今、右足の義足は足全部を覆っていますよね?
 膝から上は必要なんですか?」
 

新しく義足を作ろうと義足判定に赴いて2ヶ月半。
その間、義足が壊れ、3日。
たまたま義足の採計(例えばスーツでいう採寸)の予約をしていた日に
修理も兼ねて義足屋さん(○○製作所という名前が多い)に行きました。
 

以前書いた義足の作り方の記事にてお伝えしましたが
義足を新しく作るためには公的機関による判定を受け、
マスターカードをもらわなくてはいけません。
 

①義足・装具の判定を受け、マスターカードを受け取る
 ↓(今回受け取るまで、左足の装具は当日、右足の義足は1ヶ月)
②義足屋さんへ行き、マスターカードを渡す
 ↓
③マスターカードを参考に、見積もりを作成。見積もりを受け取る。
 ↓
④見積もりを区役所へ送付。許可が下りれば製作開始。
 ↓
⑤採型〜仮合わせ〜完成(ここは早くても1ヶ月かかる)
 

という手順で進みます。現在のささきは②の地点。
②は渡すだけ、③は売上に影響することなのでそんなに時間がかかりません。
ただ④は役所仕事なので「いついつまでに」というのは一切教えてくれません。
④が必要な理由は、義足は約40万〜50万円かかることもあり、
保険を適用し、1割負担で済ませるためです。
ただ、申請をしなければ作ることができないこともあり、
誰がどんな義足を履いているのか、管理していることもあるでしょう。
 

いつから作り始められますか?と義足屋さんに聞いたところ、
「こちらでの書類はゴールデンウィーク前には送るつもりだけど、
 新しいマスターカードは分からないですね。1ヶ月は見ててください。」
税金等の請求・回収の期限は明確で、督促はこれでもか〜と来るんですが(笑)。
 

冒頭の言葉は②の際に頂いたものです。
「マスターカードというのは今履いている義足などを判定した結果。
 あくまで今現在のものなんですよ。私たちは患者さんの状態や未来を考え
 義足や装具を作っていくんです。マスターカードを覆すことはあり得ますよ。
 それが私たちの仕事です。だっていい義足履きたいでしょ?」
 

今まで、義足屋さんの言うことは絶対だと思っていました。
27年間履いてきた義足や装具を踏襲し、作るものだとばかり思っていました。
選択していいんだ、選択できるんだ。
この感覚はささきにとって本当に嬉しいものでした。
 

義足の作り方は、スーツの買い方・作り方と似ています。
例えば、AOKIや洋服の青山といったスーツ屋さんに行き、
店員さんに採寸はしてもらうものの、店舗にあるスーツを提案されるのが
今までの私の義足の作り方でした。特に不満はありません。
今回はオーダーメイドのスーツ屋さんに行き、仕立ててもらった感覚です。
採寸・スーツの素材選択・用途に合わせた提案・ボタンのデザイン選定など
細かいところまでこちらの要望を伝えられ、回答をもらうことと同じです。
 

その後は、当日対応して頂いた方から、義足に関しては、
全体像の改善提案(先述の膝から上不要論について)と
足部(先日壊れた箇所)の変更提案を受けました。
また、義足の変更により、今まで履いていたインナーの変更が可能になるため、
汗によってできるタコを失くすことができ、臭いも抑えられると伝えられました。
 

例:今までの右足インナー
 


 

例:これからの右足インナー(予定)
 

image (4)
 

装具に対しても、そもそも今の形態からの変更を実施したいという提案を受け、
バランスをとるための装具自体の重心変更を施すことや
こちらも汗を抑えられるよう、素材の変更を提案して頂きました。
 

そうなんです。こういう提案を待っていたのです。
お伝えをしておきますが、今までの義足にほとんど不満はありません。
ただ、それ以上に使う本人が「選択」できることが嬉しいのです。
この喜びはなかなか伝わらないかもしれません。
 

ちなみに、私は以前の記事で、障害判定の折に
「義足屋さんによっては足を見てもらった後に、判定と違う見立てをする
 場合があって、義足の形態や使う部品の変更を求められることがあるんです。
 義足屋さんにも懇意にしてるメーカーとか技法とかあるんですよ。」
と言われたことを書きました。
義足屋さんに対して勘違いをしていたことを深くお詫びしたいと思います。
 

2段落に渡る長い余談となりますが、
「義足屋さんがあなたのことを考え、よりよい義足・装具を提案するかもしれません。
 その際は判定と違う見立てが出てしまうかもしれません。
 ただ、マスターカードがなければ作り始めることはできません。
 したがって再発行する可能性があることをご理解ください。」
というプロセスでなぜ説明してくれなかったのでしょう。
 

1割負担で済む状況を作って頂いている障害者福祉への感謝はありますが
私の義足屋さんに対する不信感を助長する必要はなかったはずです。
伝え方ってすごく大切なんだけどなと思います。
 

新しいマスターカードを受け取ることができれば
いよいよ義足・装具を本格的に作り始めることができます。
今までは、実は作り始めることが楽しみではありませんでした。
ヤドカリが自分の体の大きさに合わせ新しい貝に住み替わるのと同じで
成長が理由で履き慣れたものを手放さなくてはいけなかったからです。
 

スニーカーですら好きなものを履けない義足人間。
自分の足づくりが楽しみというのは、本当に初体験なのです。
 

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。