「エッチがこわい」という性の悩みを相談できる相手はいる?柳田正芳さんがつくる若者向け「性のお悩み相談所」

「彼氏は好きだけどエッチするのは怖い」
「生理がつらい」
「早漏をどうにかしたい」
 

性に関するデリケートな悩みを持ったとき、思春期の若者たちはどこで誰に相談しているのでしょうか?友達に知られるのは恥ずかしい。否定されたらどうしよう。周りに相談できる大人がいない。でも、ひとりで溜め込むのはつらい。
 

今回お話を伺ったのは、そんな若者世代にリプロヘルスサービスを届ける会『Link-R』の代表・柳田正芳さんです。中・高・大学生などが性の悩みを相談できる場所「まちの保健室チカシェスタ」の運営や、若者・親向けに性関係の講演などを行っている柳田さんに、若者から寄せられる相談内容や、若者の相談所をつくる必要性についてお話を伺いました。

※リプロヘルスとは「性と生殖に関する健康」のことをいいます。
 

「Link-R」の代表・柳田正芳さん
「Link-R」の代表・柳田正芳さん

 

性交渉や性器のことから、部屋が片付けられないまで。若者たちの様々な悩み

 

柳田さんにお話を伺うことになった際、私がまず気になったことが「若者の性相談の内容」です。26歳の私より数百倍ませた中学生もいる中で、どのような性の悩みを抱くのか非常に関心がありました。柳田さんが6年前に事務局長を務めた若者の相談センター、そして今運営している「まちの保健室チカチェスタ」。相談に来る若者の男女比は「女子:男子=3:1」くらいといいます。この手の店舗型の相談サービスは全国的にその傾向があるそうです。
 

女の子のほうが、妊娠をはじめ「自分ごと」になる性の問題が多く、こういう場に飛び込む度胸もあります。男子は意外とチキンですね(笑)。センターに入るところを誰かに見られる不安などの心理が働いて来ることができず、電話やメールの相談が多くなります。

 

そんな男子からの相談は、人間関係や恋愛関連も多いようですが、柳田さんの口から最初に出たのは男性器についての悩み。これは思春期男子にとって「自尊心に関わる重大な問題」です。
 

中高生の男子たちからは、大きさ、太さ、包茎、早漏・遅漏などを相談されます。「男はこうあるべき」「男性器はこうあるべき」「大きいのは正義」「早いのはイケてない」といった空気感が社会には溢れていますが、本来やる必要のない意地の張り合いなんですよね。男の生きづらさがここにあります。

 

確かに生きづらそう。女子でいう巨乳貧乳比較論よりも深刻な雰囲気。一方、女子の場合は年代によって相談内容も大きく変わるようです。中高生の場合は「生理」に関する相談が多いようですが、大学生くらいになると避妊・性感染症の予防など、性交渉に関するリアルな相談が増えてくるそうです。
 

「なんでお腹が痛くなるのか分からない」といった生理のメカニズムに関する質問や「生理がくることを受け入れられない」みたいな悩みも聞きます。性交渉に関しては「エッチが怖くて彼氏と別れてしまう」という女の子の相談を受けました。なんでエッチが怖いのか聞いてみると、彼女が恐れているのは行為そのものではなく妊娠のリスクだったんですよね。ああ、そうだったのかと。こちらからは避妊法の話や避妊の失敗率のデータなどの事実を伝えました。その後どうするかは自分で選択してもらいます。

 

まちの放課後チカチェスタ。毎週水曜日13時〜19時、調布でオープン。
まちの放課後チカチェスタ。毎週水曜日13時〜19時、調布でオープン。

 

性の問題は日常の様々な悩みの延長線上に存在しているもの。たしかに柳田さんは性に関するお悩みを解決してくれる方ですが、性の悩み以外の相談も多く寄せられるそうです。
 

部屋を片付けられない、頑張りなさいという言葉がつらい、弟のオナニーを見てしまって複雑。本当にいろんな悩みを相談されます。性の悩みはその一部という感じです。「まちの保健室チカチェスタ」は「性の悩みしか受け付けません」という場ではありません。

 

正しい知識を得ることは大切、その知識をどう活かすかがもっと大切

 

若者の相談にのる際、柳田さんは個々の悩みに対してきちんと事実・データ・知識をお伝えしている印象を受けます。それは気休め的な励ましの言葉よりも、相手の悩みを解決する力を持っているように感じます。知識や事実を伝えることの重要性について、柳田さんは「第二次性徴」を例にお話してくれました。
 

性的な悩みを様々抱くのは、第二次性徴があるからです。この時期は大人になる準備をするために体や心が変化します。その結果、性の意識が強くなったり、それをうまく受け入れられなかったり、友達と比較して劣等感を覚えたり、大人の言うことがなぜか無性にイライラしたりしてしまったり、様々な変化に対する葛藤があります。この時期があることは何もおかしくないですし、どうしたって生きづらい時期なんですよね。

 

20151209③
 

僕が講演で第二次性徴について話すと、生徒から「自分が毎日イライラして自信をなくす理由が分かった。いつかは終わるんだと知って安心した」と感想をもらうこともあるんですが、その度に「そういう話って学校で教えてもらわないの?」って思うんですよ。第二次性徴について知らなければ、彼らは自分の変化の理由が分からないから戸惑うわけじゃないですか。学校で知識が得られないなら、その環境を用意するしかない。「まちの保健室チカチェスタ」のような場をつくった背景ですね。

 

知識の提供はあくまでも問題解決のツールであり、柳田さんが目指すのは「知識や情報を得た上で、自分の生き方を自分で決めること」だと言います。そのためには講演で集団向けに話をするよりも対面相談をするほうが効果的だと柳田さんは語ります。
 

講演だと相手は一方的に話を聞くだけで分かった気になって思考停止してしまう。また集団相手だとひとりひとりには寄り添いきれないと常に思っています。相手が自己決定していくためには、対面である程度時間をかけて話をして、本人が気付きを得ていく必要があります。

 

ここは入り浸る場ではなく、あくまでも一時避難の「サードプレイス」

 

多くの場合、高校生までは家と学校がひとりひとりにとっての大きな2つのコミュニティ。家族関係がうまくいっていない、教室にいることがつらい。どちらか一方でも「居場所がない」という状況になると、その子の人生の50%は真っ暗になってしまうのではないでしょうか。
 

頼りになる大人が親身に相談を聞いて寄り添ってくれる、サードプレイスとしての「居場所」の重要性は、最近いろいろなところで語られています。しかし、心の拠り所となり得る一方で、時に相談者をその場に依存させることもあるのではないか。その空間にしか自分の居場所を持てない状況はかえって不健全ではないか。不登校支援の活動をしていた頃から私が強く感じていた疑問を柳田さんにぶつけてみました。
 

ここはあくまで一時的に避難して回復するための場所で、元気になったら自分のコミュニティに戻ろうねというスタンスです。家庭と学校以外に、ゆるくつながることができる居場所があることは大切だと思います。その場所で新しい気づきや視点を得て、自分が抱えている問題の解決につながったり、気持ちに余裕ができたりして、元のコミュニティでうまくいくようになればいいなと思っています。ずっといてもらうのは困っちゃう(笑)。

 

「まちの保健室チカチェスタ」に来ることで、知識や考え方、自尊心などを得ていくことができても、抱えている問題が根本的に解決するわけではなく、最後は自分でなんとかするしかないと考える柳田さん。代表を務める『Link-R』の理念も「若者世代の『自分で決める』を後押しする」というものです。
 

若者が自立を目指す過程で、性の問題も含めて必ず困難にぶつかることもある。そんな時にふと立ち寄れる場所はやっぱり必要なんです。ただ、自分の人生を決めるのは自分。僕はその後押しができればいいと思っています。

 

相談されたら親身になって聴いてくれる。その一方で支援側としては適度な距離を保つ。良い意味での「そっけなさ」がある柳田さんには、思春期の子も相談しやすいのかもしれないなと感じます。性の悩みは、思春期の若者たちにとっては本当に繊細で、重大なもの。そして、彼らが性に関する正しい知識を得る機会はなかなか乏しいものです。性の不安を誰にも相談できず抱え込んでいるひとには、ぜひ柳田さんやチカチェスタを頼ってみてほしいです。親身な対応と豊富な知識できっとその不安を軽くしてくれるでしょう。
 

「Link-R」ホームページ:www.link-r.org

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この記事を書いた人

真崎 睦美

平成元年生まれのフリーライター。前職は不登校支援の仕事に従事。大学時代は教育の道を志す「the 意識高いキラキラ学生」だったが、新卒入社した会社を2か月でクビになり、その後務めた会社を2か月で退社して挫折。社会人2年間で2回の転職と3社の退職を経験し、自らの「組織不適合」を疑い始めてフリーに転身する。前職時に感じた「不登校生は〇〇だ」という世間的イメージやその他の「世にはびこる様々な偏見」を覆していくべく、「生きづらい」当事者や支援現場の声や姿を積極的に発信していく予定。人生の方向性は絶賛模索中。