出会いと別れと痛みがもたらした変化【脳脊髄液減少症】

※脳脊髄液減少症のために相変わらず24時間365日痛みに苛まれています。ここ数ヶ月は特に痛みがひどく、痛みで頭が働かず、記事を書きたくても書けない状態が続いていたため、今回はPlus-handicapライター・木村さんの代筆で近況をお伝えします。(重光)
 

脳脊髄液減少症とは?
外傷性または突発性により発症する脳脊髄液が漏出・減少し、十人十色の症状を引き起こす病気。記憶障害、睡眠障害、免疫異常、全身倦怠、視力低下、光過敏、めまい、吐き気、体中のしびれや痛み等書ききれないほどの症状を引き起こします。詳しくは脳脊髄液減少症のWikipediaをご覧下さい。

 

痛みがキツすぎて、木村さんに取材してもらっています。
痛みがキツすぎて、木村さんに取材してもらっています。

 

家族会での出会い

 

今年の夏、初めて脳脊髄液減少症患者の家族会に参加したんですが、そこで聞いた患者のお母さんの話が衝撃的でした。痛みに苦しんで弱っていく息子さんを見て、無理心中しようとしたらしいんです。実際に寝ている息子さんの首に手を掛けようとしたところで、息子さんが目を覚まし、お母さんへ「ごめんね」と伝えたそうです。無理心中ってすごいなという驚きと、家族がそこまで子どものことを考え、理解しようとしたんだという二つの驚きがありました。自分の経験上、身近な人ほど病気を理解しようとして苦しんだり、病気であってほしくないと思ったりと、距離が近いからこその難しさがあると思っていたので、すごく印象的で。このお母さん、子どものこと考え続けたんだなって。正直、その息子さんが羨ましくも思えました。
 

家族会ではもう一つ出会いがありました。自分と同い年の同病者で、原因も突発性(原因不明)で同じです。彼とは長い時間電話やお茶をしました。はじめは、私の話をずっと聞いてくれたように思います。二人とも痛かったりしんどかったりしたのに(笑)。お互いの苦労が実感レベルで想像できるんですよ。無理なく分かりあえて、この10年で初めて楽だった。隠さなくていいし、嘘つかなくていいし、無理しなくていい。そんな出会いがあって、あらためて同病者の存在を身近に感じたのが今夏の家族会でした。
 

20151204②
 

病状の悪化と見知らぬ人からのメール

 

一方で、この夏は僕自身の症状がひどかった。ひたすら痛いので、動こうと思える頃には夕方になっていて、起き上がって数時間だけ活動するような日々が続いていました。用事がある日は、気合や根性といった、文字通り精神論でこなしてきましたが、もう長くは続かなそうです。
 

痛みで活動できない日は、寝ながらスマホを触るぐらいしかできることがないので、同じ病気でヘコんでる人や、励ましている人たちのやりとりをtwitterで見て、ありきたりだけど一人じゃないと思った。誰にともなくつぶやいたり、同病者のつぶやきにレスしてみたり、同病者の心境の変化に自分を重ね合わせたり、違う考え方もあるんだと思ってみたり。他人の存在に元気をもらうんですよね。やっぱり一人じゃダメで。
 

僕が闘病を始めた10年くらい前はSNSがなかったので、情報収集はブログとインターネットだけ。ネットで検索してヒットしたブログにコメントを書いてやり取りして、ちょっとずつ仲良くなった。だけど、治療がうまくいった人とうまくいかなかった人とでまた疎遠になっていく。
 

2年前からプラハンで記事を書き初めて、SNSでも発信していると、同病者から連絡がくるわけです。「夫が脳脊髄液減少症かもしれず、悪化の一途をたどっているのだが、あなたはどこで診断を受け、どんな治療をしましたか」「主人はもう痛みで声もあまりあげなくなりました」と見ず知らずの方から切羽詰まったメールをもらったこともあります。その奥さんのメールで、前妻の辛さが少し想像できました。決して他人事じゃないんだけど、僕も症状が辛いから全てに返事をするのは難しい。結局メールをくれた方の旦那さんは違う病気で、手術をしたけど良くならないというメールをもらったところでやり取りは終わっています。こういうメールが何通も来るんですよ。
 

逆に、私はこれでよくなりましたよ。お体大切にしてくださいといった情報提供や応援のメッセージもいただきます。
 

ネットから姿を消した同病者たち

 

もうひとつ、ここ数ヶ月で同病者が相次いでネット上から姿を消してしまったことも、自分にとっては大きな出来事でした。
 

SNS上に「ありがとう」をたくさん書いてフェードアウトしちゃう。「何度目かのブラッドパッチ治療(※1)を受けた。今調子よくない」と書いたきり更新がなかったり。その後どうなったかは分からないけど、自死した可能性もあるんだろうなって。僕の直接の知り合いで亡くなった方は知りませんが、ネット上ではちらほら目にします。正直、自分も生きていくのは無理だろうなと考えていた時期があったから、死を選ぶ人の気持ちが分かる気がします。このままでは迷惑かけると考え抜いて妻とも別れました。でもやっぱり、同病者がいなくなってしまうと、せっかく頑張ってきたのにもったいないな、他に方法がなかったのかなって思うんですね。
 

痛みのあまり、円形脱毛症になっていた頃
痛みのあまり、円形脱毛症になっていた頃

 

当事者同士がつながれる場を

 

家族会での出会い。見ず知らずの人からのメッセージ。症状がひどい時に感じたSNS上の同病者の存在。ネットから消えていった同病者たち。こうした出会いと別れがきっかけで、当事者同士がゆるやかに繋がれる場の必要性を感じるようになりました。プラハンのライターでもある野村千代さんが運営するアトピー患者のためのウェブサービスuntickleの脳脊髄液減少症版をやりたいと思ったんです。脳脊髄液減少症を抱えながらも、皆のハウツーを共有できたらいいなと。
 

サイトでは、世代・収入・家庭環境・発症理由・治療回数などでカテゴライズして、自分に近い人の情報を見つけられるようにしたい。アメリカには「PatientsLikeMe」という難病患者に特化したSNSのようなウェブサービスがあって、患者が検査値や病状のデータを蓄積して情報を共有し、そこからQuality of Life(=生活の質)を高めるんです。僕も十何種類の薬を飲んだけど、どの薬・用量・用方が効くか、事前に似た症例から参考になる情報があれば、行き当たりばったりで試すより症状緩和の近道になるんじゃないかなって。
 

患者が「社会の中で生きていくための情報」も提供したいです。今ネット上にあるのは、脳脊髄液減少症の治療法や症状といった「入門情報」ばかりで、長年病気に向き合った人がどんな生活をしているか、仕事はどうしているのかといった情報がない。実際は治療以外の時間がほとんどなのに、生きるために必要なことは何も分からないんです。だから、自分と似た環境にある同病者がどんな工夫をして生きているか、どうやって社会復帰したか、どんな仕事をどれくらいの頻度でしているのか、家族の理解はどうやって得たか。そんなことを知れたらいいかなって。誰しもがなり得る病気だからこそ、早期発見・早期治療につながる情報も提供できればって。
 

同病者の声を待っています

 

第一に、当事者に生きるヒントを提供する。第二に、当事者の社会復帰のエピソードや仕組みを提供する。第三に、早期発見・早期治療につなげる。この病気は、発症から時間を空けずに治療することが大切なので。これらがウェブサービスの目的です。十数万~数十万人といわれる患者のうち、社会復帰できておらず、スマホを利用している就労可能年齢(20代から50代くらい)の人が主な対象になると思います。
 

症状で苦しんでいる人が社会復帰のエピソードを読んで本当に元気が出るのかとか、そもそも当事者のニーズがあるのかとか、まだまだ検討の必要はありますが、まずはテストでもいいから開始しようと着手したところです。早く当事者に体験してもらって、ダメ出ししてもらいたい。それを受け取って改善していこうと思っています。この記事を読んでいる同病者の方がいたら、「こんなサービスがほしい」など、ぜひ要望を連絡してほしいです。
 

昨日から脳脊髄液減少症当事者同士の情報交流サイトをつくるための クラウドファンディングをスタートしました。
昨日から脳脊髄液減少症当事者同士の情報交流サイトをつくるための
クラウドファンディングをスタートしました。

 

理解者を探しているのは僕だけじゃない

 

前妻と別れるときに「あなたがいくら努力しても、誰もあなたの痛みを分かることはできない。だから、自分で折り合いをつけて生きていかないといけない」と言われて、確かにそうだなと思いました。それでも、理解者を探しているのは僕だけじゃないんじゃないかって。同病者の人が病院で僕のことを見かけたのか、病院から帰るバスの車内で「あなたも脳脊髄液減少症なの?」って話しかけてくれたことがありました。たまたまかもしれないけど、みんな分かってくれる人を探してるんじゃないか。同病者同士がゆるやかに支え合えたらいいなと思ってしまう。
 

僕自身、これまでたくさんのお金と時間を使っていろんな治療をしたけど全然良くならなくて、だんだんもういいかな、もう無理だよってなってきてしまった。だけど、そういうときに他の同病者が何をしているか、意外と病気でもやっていけるんだと分かったらふさぎこまないかもしれない。希望がありすぎてもダメだけど、ちょっとずつならいいのかもなって。
 

ここ2~3年、意識がある時は絶えず病気のことが思考の大半を占めていました。美味しいものを食べても、友人と楽しい時間を過ごしても、やりがいのある仕事をしていても、まず「痛い」があって、その次に思考や行動が始まる。脳脊髄液減少症の痛みを抱えながら生きていく理由を見つけないと、この先やっていけない。そう感じています。
 

病気をめぐる現状は厳しいです。ブラッドパッチ治療は医療保険適用外で全額自費治療(来春保険適用の可能性有)だし、社会的な保障制度もなく、社会の認知も低い。こうした現状を変えることも大切だけど、制度や認知が変化したとしても、当事者同士がつながれるサービスは必要だと思っています。
 

病気と向き合いはじめて約10年。自分自身にけじめをつけるためにも、ウェブサービスの立ち上げが必要だと思い、動き出しています。
 

※1:ブラッドパッチ治療(硬膜外自家血注入療法)
 

外傷性または突発性により脊髄に開いた穴から漏れ出る脳脊髄液を、自らの血液の注入により塞ぐ治療法。治療自体は正味20-30分。その後、注入した血液が安定するまで数日〜1ヶ月程度の安静が必要。現時点では「治療=完治」に至っておらず、治療回数が多過ぎても弊害があるとされ、最近は上限4回が目途となっている。2012年に先進医療に指定され、画像診断により髄液の漏出が確認された場合に限り、先進医療を実施している医療機関で治療を受ければ、治療にかかる費用の一部について保険適用を受けられる。15年10月には、厚生労働省の研究班が来春の保険適用を目指していると発言。当事者が考える保険適用の意義については、こちらの記事をご参照ください。
 

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この記事を書いた人

重光喬之

10年来、脳脊髄液減少症と向き合い、日本一元気な脳脊髄液減少症者として生きていこうと全力疾走をしてきたが、ここ最近の疼痛の悪化で二番手でもいいかなと思い始める。言葉と写真で、私のテーマを社会へ発信したいと思った矢先、plus-handicapのライターへ潜り込むことに成功。記事は、当事者目線での脳脊髄液減少症と、社会起業の対象である知的・発達障害児の育成現場での相互の学び(両育)、可能性や課題について取り上げる。趣味は、写真と蕎麦打ち。クラブミュージックをこよなく愛す。