自閉症の子どもは「困った子」ではなく「困っている子」?ー自閉症体験×謎解きイベント「88ぶんの1」レポートー

開始時間より遅れて会場に入った私の目に飛び込んできたのは、なかなかに異様な光景でした。2つのテーブルに3~4人がグループをつくってなにかワークをしていたのですが、各人の目には写真のようなペットボトル、手には厚手の軍手。これは、一体…?
 

私、真崎です。
私、真崎です。

 

2015年8月19日。自閉症支援を行うNPO法人「ADDS」が主催するワークショップ『88ぶんの1 –謎解き×自閉症体験-』に参加してきました。きっかけは、ADDSの共同代表である熊仁美さんに取材を行なった時のこと(「自閉症児ではなく、その親御さんへの応援にこだわる理由。―NPO法人ADDSの自閉症支援とは?」)。そこで自閉症を体験できるワークショップがあるというお話を聞き、「絶対に行きたい!」と思い、今回の運びになりました。
 

私は元々、発達障害に強い関心がありました。塾の講師をしていた頃、「ADHD」や「自閉症」の診断を受けたお子さんをお預かりする機会がよくあったのですが、個人的に「本当に発達障害なの?」と思う子が少なくありませんでした。あるとき、不登校且つ自閉症の診断を受けていた生徒を担当したのですが、雑談や勉強をする様子を見ていても、その子が自閉症だとはどうしても思えませんでした。教育業界にいる中で「勉強が苦手な子や不登校の子に対して、すぐに発達障害や精神疾患の疑いをかけているのでは?」という感覚が拭えず、そこから「そもそも発達障害は本当に存在するのか?”大人にとって困った子”に対して、勝手にレッテルを貼って区別しているのではないのか?」という懐疑的な疑問まで浮かびました。
 

発達障害についてもっと勉強したい。「発達障害を持ったと言われている方たち」は本当に生きづらい思いをしているのか知りたい。できれば、可能な限りその方たちに寄り添えるようになりたい。今回のワークショップは、そんな私のニーズにぴったりの機会でした。
 

88ぶんの1のチラシ(2015.05.21のプレスリリース時のもの)
88ぶんの1のチラシ(2015.05.21のプレスリリース時のもの)

 

謎解き×自閉症体験「88ぶんの1」

 

今回のワークショップは「88ぶんの1」という謎解きもの。「未来の教室から脱出して現代に帰ってくる」という設定であり、「脱出ゲーム」という響きに遊び心がくすぐられました。集まった参加者の中から3~4人で1つのチームをつくり、先生役と生徒役に分かれ、協力しながら脱出を図ります。
 

実はこの生徒役にはある特性が与えられます。その特性は自閉症の特性を忠実に再現していて、脱出ゲームを楽しんでいる間はずっと自閉症の世界を体験できます。そして、先生役はその特性を目の当たりにしながらうまく生徒役を導いていかなくてはなりません。
 

また、生徒役には3重になった軍手、ペットボトルをつけたゴーグル、周囲の音を拾い集める集音機が配られ、これら全てを装着したうえで(装着した状態が冒頭の写真です)プレイしなくてはなりません。
 

当日渡された3つの装備
当日渡された3つの装備

 

いきなり生きづらいわ…
 

手渡された装備を身につけた瞬間から衝撃が走りました。これは、実際に自閉症の特性として見られる「触覚」「聴覚」「視覚」などの感覚が、通常よりも過敏あるいは鈍感であるという「感覚的な問題」を再現しているらしいのですが、凄まじいストレスを感じました。個人的に「聴覚過敏」の体験は強烈で、集音器を5分間つけ続けるだけでも激しく体力を消耗しました。これが授業中ずっと続くなんて拷問に近いなあと率直にそう思いました。
 

先生役だけは上記の装備をつけていない状態ですが、それでも違った意味で全力で困っていました。先生役は生徒役に与えられるミッションを補助する役割が主ですが、自閉症の特性を持った生徒たちに見事に翻弄されていきます。例えば、延々と関係のないことを話し続けられたり、反対に言葉を発することなく先生から声をかけられるまで固まっていたり。ミッションごとに起こる様々な特性にどう対応していいのか分からず、「もういやだー」という先生役の嘆き声が漏れるシーンもありました。
 

私は「不安や緊張が強く、自発的・積極的な関わりが少ない」が与えられた特性のうちのひとつだったのですが、これも自閉症の特性として表れる状態だそうです。分からないことがあっても自分から先生に質問できない。生徒から話しかけられても上手く受け答えができない。そんな演技をしているうちにリアルな「孤独感」に襲われていた自分がいました。さらには、うまくミッションをこなせず、本当にちょっと泣きそうになっている私。これは、きつい。素直にそう思いました。
 

とは言っても、段々と先生役が生徒役の特性や状況に気づき始めると、ミッションを解決に導くための対応が変わってきます。「生徒ひとりひとりに合った関わり方」を工夫してくれることで、ミッションへの取り組みが円滑になっていったのです。私の場合だと、先生からの声かけが増えていったり、他の生徒との間を取り持ってくれたり。最初に感じていた「孤独感」が一気に緩和されて、安心してやるべき事に集中することができました。ちなみに私のチームの先生役は中学1年生の女の子が務めたのですが、徐々に対応がうまくなっていくことを目の当たりにして、非常に頼もしく感じました。かえって大人のほうが苦戦するかもしれません。
 

(参考)幼少期の療育支援の様子 https://www.atpress.ne.jp/news/61987より
(参考)幼少期の療育支援の様子 https://www.atpress.ne.jp/news/61987 より

 

生徒が感じた圧倒的な「孤独感」と、理解者のいる「安心感」

 

脱出ゲームが終わると、「体験の中で困ったこと」「嬉しかった・助かった関わり」について共有する時間がありました。印象的だったのは、異なった自閉症の特性を持った生徒役3人が声を揃え、とても孤独感を感じたと話していたことです。私の場合は誰とも上手く話せなくて黙り込んでいる孤独感でしたが、自閉症の子どもは教室の中でそれぞれの背景から「凄まじい孤独感」を感じているのかもしれない。そう思うには十分な体験でした。
 

そんな中で「嬉しかった・助かった関わり」では、私が感じた「先生が声をかけてくれた」を筆頭に、特性に合わせた対応をしてもらえた生徒役全員が「先生の関わり」における嬉しさを挙げました。先生役自身も、関わり方を変えるとそれぞれが自発的にミッションに取り組んでくれた様子を見て達成感を感じていたようです。開始当初と終了直前では、先生役の関わり方、そして生徒役が先生役に対して抱く安心感の度合いが明らかに変わりました。
 

「自分の特性を理解してくれた上で、自分に合った関わり方をしてくれる」ということは、実際に自閉症の子どもたちがどう感じるか分かりませんが、私自身はそれがとても嬉しかったことを心に刻んでおこうと思いました。
 

「困った子」は、実は「困っている子」かもしれない

 

最後に、ADDSのスタッフの方から、ワークショップの総評もかねて自閉症に関する講義を受けました。
 

説明を聞いても分からない子は、学習の理解が遅れて授業についていけなくなるかもしれない。自分から人にコミュニケーションを取りにいけない子は、学校生活自体がつまらないと感じるかもしれない。関係ないことを話し続けてしまう子は、先生に注意ばかりされて先生との信頼関係が上手くつくれなくなるかもしれない。「困った子」だと思われるような生徒たちは、実は「困っている子」かもしれません。

 

その言葉が、非常に胸に突き刺さりました。本当に、すごく、困ったのです。こちらも好きで黙っているのではなく「どうしてもそれができない」という状況。そんな自分に対して「この子はなにも話さない」「なにを考えているのか分からない」と困った顔をされるのは、非常に悲しい気持ちでした。
 

私は、困っていました。だから、そんな自分に手を差し伸べてくれる存在が本当にありがたかったです。
 

そして、今回得たもうひとつの大きな学びは「先生も困っている」ということ。今回現役の小学校教員の方も参加されていたのですが、実際の学校現場で「どう対応していいか分からない生徒」と日々対峙されているご様子でした。このワークショップで全てが解決されるわけではありませんが、「関わり方」のストックが1つ増えるだけで、気持ちも対応も大きく変わるのではないかと、その教員の方を見てそう思いました。
 

その他にも非常に実践的な講義を受けましたが、ネタバレもこの辺にしておきたいと思います。今後もこの「88ぶんの1」は開催されていくと思いますので、ご興味のある方は是非参加してみて下さい。教育や福祉従事者の方はもちろん、それ以外の方でも単純に「今まで知らなかった感覚や気持ち」を味わえる貴重な機会になると思います。
 

(参考)
脱出ゲーム×自閉症体験ワークショップ『88ぶんの1』※10月の開催日程まで出ています
http://www.adds.or.jp/?page_id=2167

記事をシェア

この記事を書いた人

真崎 睦美

平成元年生まれのフリーライター。前職は不登校支援の仕事に従事。大学時代は教育の道を志す「the 意識高いキラキラ学生」だったが、新卒入社した会社を2か月でクビになり、その後務めた会社を2か月で退社して挫折。社会人2年間で2回の転職と3社の退職を経験し、自らの「組織不適合」を疑い始めてフリーに転身する。前職時に感じた「不登校生は〇〇だ」という世間的イメージやその他の「世にはびこる様々な偏見」を覆していくべく、「生きづらい」当事者や支援現場の声や姿を積極的に発信していく予定。人生の方向性は絶賛模索中。