東京パラリンピックの競技決定が話題にならない障害者スポーツの発信力と選手としてのチャンス

2020年の東京パラリンピックで実施する22の競技が1月末、国際パラリンピック委員会(IPC)によって決まりました。野球やソフトボールがオリンピック種目として復活するのかという報道やレスリングのロビイング活動など、実施種目にまつわる悲喜こもごもはスポーツニュースでも話題になることが多いですが、パラリンピックはほぼ無風状態な取り上げられ方。まだ時間があるとみるか、もうないとみるか、果たしてこのままで、2020年のパラリンピック、盛り上がるのでしょうか。
 

日刊スポーツ:東京パラリンピックの全実施競技決定(2015年1月31日)
http://www.nikkansports.com/sports/news/f-sp-tp0-20150131-1428689.html

毎日新聞:東京パラリンピック:20年実施の22競技を決定(2015年1月31日)
http://mainichi.jp/sports/news/20150201k0000m050049000c.html
 

実際問題として、本記事を公開する2月9日23時半現在、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会のサイト上では、実施競技決定のニュースを見つけることができなかったので、まだ決まってないのかもしれないという不安さえよぎります。
 

実施競技は、陸上、アーチェリー、バドミントン、ボッチャ、カヌー、自転車、馬術、視覚障害者らによる5人制サッカー、ゴールボール、柔道、パワーリフティング、ボート、射撃、シッティングバレーボール、競泳、卓球、テコンドー、トライアスロン、車いすバスケットボール、車いすフェンシング、車いすラグビー、車いすテニスという種目。7人制サッカーとセーリングが外れ(2016リオでは実施)、バドミントンとテコンドーが初採用です。
 

障害者スポーツと侮るなかれ、エキサイティングなスポーツはたくさんあります。要は魅せ方、伝え方の問題です。
 

 

障害者スポーツは、そもそもは福祉的な観点で親しまれることが多いものです。つまり、リハビリとしてのスポーツ、同じような障害を持つ仲間との交流機会としてのスポーツという側面があります。福祉的な観点が競技性としての観点まで昇華した、その最たるものがパラリンピックです。
 

障害者は健常者との違い故に、健常者が楽しめるものすべてを同じように楽しめるとは限りません。その分、余暇や娯楽といった面で、選択肢が限られてしまいます。障害者スポーツは障害者ができること、楽しめることを前提に作られているもの。パラリンピック競技は、そのなかでも有名なもの、競技人口の多いものとも言えます。体験できる機会が多いとは言えませんが、可能性は低くはありません。自身の障害の種類や状況によって、できる・できないという壁は生まれますが、アスリートとして励む、趣味として触れるなど、それぞれの考え方に合わせて体を動かすことは、非常に楽しいものです。もちろん、運動好き・嫌いの境目はありますが。
 

障害者の総数は700万人〜800万人と言われます。そのうち、実際にアスリートとして活躍できる素地をもつひとは、そこまで多くはありません。2020年まであと5年ですが、ひょっとしたらひょっとして、まだ間に合うかもしれません。人生を少し楽しむための障害者スポーツでも構いませんし、生きている間にもう一度はない可能性の高い自国開催のパラリンピックにチャレンジするのもアリではないでしょうか。
 

Yahooニュース:体育に障害者スポーツ導入―文科省(2015年2月7日)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150207-00000070-jij-pol
 

余談ですが、一部の小中学校の体育に障害者スポーツが導入されます。障害の有無に関わらず同じ授業が受けられるというメリットや多様性の受容という意図がありますが、パラリンピックへの興味喚起が背景にあるでしょう。
 

今のままでは「パラリンピック見に行きたい!チケット買おう!」という流れが起こることなく、バラマキによって会場を埋めるという方が現実的になりそうです。東京パラリンピックが盛り上がるためには、福祉的な側面を削ぎ落とし、競技としての魅力を発信し続けていくことが重要だと感じます。
 

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。