ボランティアのリアルな声が福祉の世界を近づける。WEBサイト「りょういく」のもたらす価値。

知的障害や発達障害のある子どもたちを医療的な配慮のもとで育成することを「療育」といいます。彼/彼女らが大人になり、社会に出たときに少しでも生きやすくなるように、生活習慣や社会道徳といった観点から支援することとも言えます。
 

Plus-handicapでライターを務める重光さんは、NPO法人両育わーるどの代表。療育現場で子どもたちと関わることによって、関わる側も気づきや学びを得られることができる、共に学び合うことができる。その観点から「療育」ではなく、「両育」という言葉を団体名に加え、福祉施設の支援や発達障害に関する啓蒙活動などを行っています。
 

りょういくのTOPページのスクリーンショット
りょういくのTOPページのスクリーンショット

 

両育わーるどが力を入れているのが「りょういく」というWEBサイト。サイトのメインコンテンツである「レポート」は、福祉現場へボランティアに来た方々へインタビューしたものをまとめています。障害のある子ども達と関わることで生まれる悩みや不安、葛藤や難しさなどが、そこでは生々しく記されています。
 

私自身、19歳の頃に友人に誘われ、知的障害児者のボランティアに参加しました。初めて触れる世界に困惑して、どのようにコミュニケーションをとればいいんだろう?私自身はどう思われているんだろう?と考えていました。時間の経過とともに子ども達との双方向のやりとりができるようになったんですが、そのとき、そこにいる自分が、装わず、力まず、自然な状態でいることに気がついたんです。結果的に、私は彼らとの関わりから、人生観や人と関わることの楽しさのヒントを貰ったんです。

 

何気なく参加したボランティア活動を通じて、自分自身が変わっていった代表の重光さん自身の経験が、このサイト、このレポートの本質につながっています。実際に記事として掲載されているレポートの中で、中学2年生の2人の少年のコメントが印象的でした。
 

「障害者だからといって善悪の判断を緩めたり、失くしてはいけない」という言葉。(中略)悪いことをやっているけど、障害者だから仕方ない、という考え方ではいけない。同じ人間だからこそ、ルールを守らないといけないから、ちゃんと「ダメだよ」と言ってあげないと、と思いました。

 

父が携わっている福祉の現場が身近な仕事だったので選んでみました。(中略)人を助けるって大変だなと思いました。父の仕事と同じではありませんでしたが「こんな大変な仕事をしているんだな」と驚きました。毎日帰ってくるのは遅いし、あまり話す機会もないんですが、凄い仕事をしていると実感しました。

 

自分自身が普段接することのない人物や価値観との出会いは、まさしく教育の一部分です。誰かに教わる、テキストを読むといった勉強とは種類が異なる、自分の心を揺さぶられ、頭を使う経験が生まれます。真剣に相手と向き合い、コミュニケーションをとっていくことで気づく自分自身の変化が成長につながるのだと思います。
 

また、「りょういく」を運営する背景にある、福祉現場と地域住民・学生・企業といった社会との距離を少しでも縮めたいという想いも、ボランティア経験を通じて、少しずつ多くのひとに伝わっていくもの。このサイトを訪れることで、福祉現場でのボランティア活動に興味を抱いたり、就職希望者が増えたりすれば、ポジティブな循環が生まれます。
 

両育わーるど代表 重光さん
両育わーるど代表 重光さん

 

この業界の課題として、なかなかひとが定着しないということがある。福祉業界に対するイメージもネガティブなものもある。ボランティアの声を通じて、業界に対するイメージが変わればいいなとも思うし、就職人気業界ランキングの上位になればいいなとも思う。ゆくゆくは施設の方針や児童教育の方針を理解した状態の民間出身の方を福祉施設長に抜擢できるようになればいいなと思っています。

 

専門的な知識や経験が求められる現場が多い福祉の世界。一般のひとたちとの間に、知識や情報の隔たりがあることは事実ではないでしょうか。ただ、福祉の世界は、自分がお世話になるかもしれない、自分の家族がお世話になるかもしれない。そんな可能性が多分に存在しています。自分の子どもが障害をもって生まれてくるかもしれません。
 

ボランティアの等身大の気づきや学びを発信するという手段によって、福祉と一般社会の距離が近づくことは非常に好ましいことだと思います。福祉への新しい入り口を創るのは、「りょういく」で発信されるひとつひとつの記事の積み重ねなのかもしれません。
 

りょういく:http://ryoiku.org/

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。