「知的障害者のガイドヘルパー」という仕事をご存知ですか?

東京都大田区で知的障害者の自立支援事業等に取り組んでいるNPO法人風雷社中の代表である中村和利さんによる「知的障害者のガイドヘルパー」に関するトークセッションに参加してきました。これは、風雷社中の主な仕事である「知的障害者のガイドヘルパー」について認知拡大や新規参加を促す、また地域交流を進めていくことが主な目的でした。
 

知的障害者のガイドヘルパーとは
正式名称は「知的障害者移動介護従業者」といい、主な業務内容として、知的障害者の通院介助・通院等乗降介助・行動援護サービス等を行います。各都道府県で養成研修を修了した人が(業務を行える)有資格者になれます。
※研修内容は各自治体(要確認)で異なり、地域によっては研修の受講をしなくてもガイドヘルパーの仕事を行える場合もあるようです。
※ちなみに、訪問介護員(ホームヘルパー)というのは、障害当事者の自宅で介助を行う人のことを指します。
※ガイドヘルパー等に関しては、「障害者自立支援法」もご参照ください。

 

具体的な仕事内容は、中村さん曰く「特に決まっていない」そうです。決められた時間内に、知的障害者の方と外出をして(障害者の自宅外で)一緒に過ごすことが仕事なのだそうです。どんなことをするのかは障害者自身の希望に添い、また障害者の家族の方からの要望を聞いたり、ヘルパーの意思によるところが大きいのだそうです。中村さんのお話を伺い、私なりにガイドヘルパーの仕事の意義をまとめてみると、以下の3点が挙げられます。
 

1.家族の負担軽減
 

現状の日本において、知的障害者の方が一人で生活(時間を過ごす)を送ることは難しく、家族や社会の支援が必要となってきます。住んでいる地域に施設や学校などがあれば、日中はそこを利用することが出来ますが、地域によってはそういった施設が無かったり、あったとしても当事者(利用者)に合わないものであれば、家族が一日中支援をすることなります。家族であったとしても、一日中ずっと一緒にいることの大変さは、想像を絶するものでしょうし、それがずっと続くことになるわけです。未就学児の保育施設が足りないという問題がメディアで話題になっていますが、実は、知的障害者に関しても同様の問題を抱えているのです。そんなとき、一定の時間でも障害当事者を預かってくれるガイドヘルパーの存在は家族にとって大変有難いものなのです。
 

2.分断された(知的)障害者と健常者の社会をつなぐ
 

中村さんの問題提起の中に「知的障害者の知り合いは親と教師と医者と支援者しかいない」というものがありました。内閣府の統計によると、知的障害者の方はおよそ54.7万人とされていますが、その数から考えても、通常の生活導線上で知り合いになる可能性は低いでしょう。私の場合でも、(連絡が取れる)親族の中に知的障害者の方はいませんし、友人・知人はいません。風雷社中の方々とお会いしたことで知り合いができた程度です。これは多くの方が同じような状況ではないでしょうか。
 

つまり、障害者と健常者の社会が分断されています。その要因の一つとして、問題は多々あるにせよ、障害者が外に出てこない(外出しない/できない)ということが挙げられます。中村さんが説明されていましたが、ガイドヘルパーが外出支援を行うことで、障害者側の世界も広がるでしょうし、健常者側も障害当事者と触れ合う機会が増えていくのだと思います。
 

3.知的障害者の意思決定の広がり
 

知的障害者の方の意思決定において、「自分の経験の中からしか考えることができない。だから、経験を増やしてもらいたい。」と、中村さんは語っていました。しかし、2で述べたように、知り合う人が少なければ、得られる経験も少なくなってしまいます。多様な人がガイドヘルパーに参加することで、より知的障害者の経験量を増やし、幅を広げてほしいというのが中村さんの考えとなります。
 

中村さんとの写真
中村さんとの写真

 

意義に対し、現状の課題についてまとめてみると、こちらも3点挙げられます。
 

1.圧倒的な認知不足
 

冒頭にも書きましたが、そもそもこの仕事を知っている人が少ないのが日本の現状です。私も、風雷社中さんを知るまでは全く知りませんでした。
 

2.(ガイドヘルパーの)圧倒的な量の不足
 

管轄する厚生労働省は、ヘルパーの資格等で専門性を高め、その専門性にお金を支払う形を取りたがっているそうで、他の省庁や国会等で説明をしやすくしたいことが背景にあるようです。ここで起きる問題はヘルパーの寡占化です。様々な意見が飛び交う部分でしょうが、「障害者の専門家も必要かもしれないが、自分としては多くの人に関わってもらいたい。そのために出来る限り参加のハードルを下げるべきだ。」と中村さんは述べていました。認知度の低い仕事をさらに専門化しようという行政の考え方に対し、警鐘を鳴らしているのです。
 

3.足りない人手は外国人ヘルパーで補うのか
 

政府は、国家戦略特区に限って(大阪、兵庫、京都)実験的に外国人ヘルパーの受け入れを今秋から開始します。こちらは高齢者介護がメインになりますし、ガイドヘルパーの仕事まで回ってくるかはわかりません。しかし、「意義」の部分から考えると、現段階において「外国人によるガイドヘルパー」についても慎重になるべきではないかということが中村さんの意見のようです。これは、外国人労働力を否定するものではありません。
 

一通りの説明を聞いた後に、中村さんにある質問をしました。
 

「おっしゃる理想はよくわかりますが、今まで関わりがなかったひとがガイドヘルパーをやるメリットはなんですか?事業の存在も知らず、自分自身のメリットに紐づけにくいのが正直な現実ではないでしょうか?」

 

随分と失礼な質問でしたが、中村さんは丁寧に答えてくれました。
 

「僕は、ガイドヘルパーを募集するにはポスティングチラシが効果的だと思っています。その際のコピーとして『あなたの楽しいを共有しませんか?』と書きます。さっきも言ったように、具体的なプログラムがあるわけでもないので、自分の趣味を障害者と共有する感じで良いと思うんですよ。そうした余暇の部分でのつながりがいいと思う。例えば、トレッキングが趣味の人なら、一緒にトレッキングをやるとか。だから、この仕事に必要な資質は、専門性よりも一般性だと思うのです。加えて、これは仕事なので、当然報酬も発生するというメリットもある。しかし、堅苦しく考える必要はないんです。Wワーク(副業)のうしろめたさを感じる人も多いのですが、『この仕事は、社会貢献になる』と言っています。」
 

中村さんのお話を聞いて、今まで想像もしたことのなかった仕事の存在やその背景にある様々な問題に触れました。しかし「明日からガイドヘルパーをやろう!」という選択肢はなかなか難しいと思います。ただ、考えるきっかけは生まれました。まずは問題の存在を知って、少しずつ考える・行動していくことがすべての第一歩なのではないでしょうか。
 

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この記事を書いた人

堀雄太

野球少年だった小学4年生の11月「骨腫瘍」と診断され、生きるために右足を切断する。幼少期の発熱の影響で左耳の聴力はゼロ。27歳の時には、脳出血を発症する。過去勤めていた会社は過酷な職場環境であり、また前職では障害が理由で仕事を干されたことがあるなど、数多くの「生きづらさ」を経験している。「自分自身=後天性障害者」の視点で、記事を書いていきたいと意気込む。