障害者だけのものではない障害者教育―障害平等研修「DET」に参加して―

先日、東京都大田区で開催された「障害者平等研修(以下:DET(Disability Equality Training))」の体験会に参加してきました。
 

障害を当事者の個人的な問題とするのではなく、社会や周囲の環境から生み出される問題であるとし、社会の意識変革を促すことで、社会や組織に寛容さが生まれるという考え方に基づいた、障害者に配慮した商品サービス提供や職場環境をつくっていくための企業研修がDETです。英国を始め、東南アジアなどの公的機関や民間企業等で導入が進み、少しずつ世界的にも広がっています。
 

障害平等研修フォーラム①
 

昨年12月に障害者権利条約を批准した日本でもプログラム導入の動きがあり、その体験会(説明会)が今回行われたのです。講師は、障害平等研修フォーラム代表でありJICA(国際協力機構)専門員の久野研二氏と、JICA職員で自身も障害を持たれている曽田夏記氏(ファシリテーター)でした。
 

そもそも私がDETに参加したきっかけは、とある飲み会で実行委員の方から「障害者向けの研修プログラムがあるから、堀さんにも参加してほしい」と言われたことでした。飲み会で酔っていたこともあり、私の印象としては、障害者向けにスキルやマインドを向上させるプログラムがあるんだなという認識でした。その認識が良い意味で覆されることになるのですが、後述します。
 

障害者の私でも「障害者教育」というと障害者に対して(のみ)何かプログラムを実施する、というイメージなので、健常者も含めて大半の方がそういった認識ではないでしょうか?
 

例えば、障害者雇用の現場では、「障害者もっと頑張れ!」「健常者にも障害者のことを理解してほしい、一緒に働けるように譲歩してほしい」という「障害者<健常者」の意識が大勢を占めている感があります。確かに一面の真理がありますし、私自身もそう思う部分もあります。しかし、もっと単純に、障害者も健常者も、無理に肩ひじ張らず、お互いがお互いを必要として、共生ができる社会の存在について考えられないだろうか。そんな時にDETに出会ったのです。
 

障害平等研修フォーラムのfacebookページより引用したDETの定義になります。
 

1. 障害平等研修(DET)とは
・英国で差別禁止法(1995)推進のための研修として発展
・障害を「機能的な不便」としてではなく、「差別・不平等」の課題とする障害教育
・知識ではない。参加者が「社会変革の行動主体」となるための行動指向型研修
 

2. 内容と効果
・障壁を発見する「目」の獲得:「障害の社会モデル」
・参加者が「社会・環境可能性の拡大(Enablement)」のための行動主体となる:「行動計画」
・主に組織(企業・自治体等)の職員を対象とし、組織内に「障害の社会モデルの視点」「合理的配慮」を導入する基礎を構築する
・組織(企業・自治体等)の障害理解を高め、障害者雇用や障害者へのサービス向上をはかる

障害者平等研修フォーラムfacebookページ:https://www.facebook.com/detfota

 

「障害者平等研修」は、障害者が何に困っていてどのような解決案、実行案を考えていけば良いのかを学んでもらう企業研修プログラムです。健常者・障害者関係なく、障害者が暮らしやすく、そして健常者自身も生活しやすい豊かな社会を築いていくために、体系化されたプログラムがDETなのです。考えるきっかけづくりとしても効果的なものです。
 

これまで障害者と関わりがなかった人へ急に「障害者のことを理解してよ」「一緒に働けるようにいろいろ準備してよ」などと言っても、なかなか対応は難しいと思います。「そもそも障害者について考えたことがなかった」というのが健常者や一般企業、組織の世界ではないでしょうか?様々な社会問題が存在し、自分たちの生活だけでも精一杯である現代に暮らす人々に、「障害者への配慮」という概念を性急に求めてもなかなか難しいでしょう。それ自体は誰の罪でもありません。今まではそういう社会の在り方だったのです。これから少しずつ変わっていけばいいのです。
 

DET
 

私自身、障害者でありながら、障害者雇用における教育というと障害者自身が自分を強く持って、スキルやマインド等を向上させることだと考えていました。たしかにこれは重要ですが、受け入れる側にも障害者への教育でアプローチするものがあれば大変有意義でしょうし、双方がお互いを向上させて行ける取り組みがあったら、より効果的ではないでしょうか。DETにはその可能性を感じました。
 

ちなみに、DETのファシリテーター(講師)になるための条件として、「障害当事者」であることがあります。こんな可能性がありそうなプログラムのファシリテーターに、障害者しか手を挙げられないのは、非常におもしろいと感じています。私には参加資格がある。私はファシリテーターを目指していきます!!
 

今後またいろいろと情報をお伝えしてきたい所存です。

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この記事を書いた人

堀雄太

野球少年だった小学4年生の11月「骨腫瘍」と診断され、生きるために右足を切断する。幼少期の発熱の影響で左耳の聴力はゼロ。27歳の時には、脳出血を発症する。過去勤めていた会社は過酷な職場環境であり、また前職では障害が理由で仕事を干されたことがあるなど、数多くの「生きづらさ」を経験している。「自分自身=後天性障害者」の視点で、記事を書いていきたいと意気込む。