「大企業に入っても3年以内に3割辞める」は大嘘

大卒の3年以内離職率が3割というのは、ブラック企業に関連して多くのメディアが報道したこともあり、多くの方が知る事実となってきました。しかし、この状態は20年以上前からほとんど変わっていないということを知らない人もいて、中には「ゆとり教育で根性がなくなったせいだ」という主張をする人がいるのも現実です。厚生労働省から発表されているデータを見れば、20年前から同じ状況である=ゆとり教育が原因だと言えないことは明白なのですが、こういったデータを知らない方々はまだまだたくさんいます。
 

そして、大卒が3年以内に3割辞めるという事実をもとに、某若者支援・教育系NPO代表の方がSNS上でこんなことを言っていました。
 

「大企業に入っても3割は3年以内に辞めてしまう。だから大企業を目指すよりも、中小企業でも自分にあった企業を選ぼう」
 

私はこの投稿を見たとき、憤りを覚えました。なぜなら、この人の言っていることは大嘘だからです。彼は、NPO界隈の人間なら知らない人はいないと言ってもいいくらい有名な人であり、それなりに大きな規模のNPOの代表です。当然、就職活動中の大学生にも影響力を持っています。それにも関わらず、こんな嘘を言って大学生を騙しているのです。
 

3年で3割が辞めるというのは事実です。しかし、大企業でも中小企業でも一律で3割が辞めているわけではありません。厚生労働省発表のデータをもとに私が作成したグラフをご覧ください。
 

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企業規模が大きくなれば大きくなるほど、離職率は下がっています。つまり、中小企業は3割以上辞めているけど、大企業は15%くらいの離職率。全体としてとらえると3年で3割辞めているのです。つまり、中小企業に行った方が3年以内で退職する確率は高いということになります。
 

また、このデータをみると、従業員数が1人~5人の企業での離職率が最も高くなっています。私もこのデータを見るまでは「少人数だとコミュニケーションも充分とれるし、価値観の共有もしやすいから離職率は低いのではないか」と考えていたのですが、このデータはそれを否定する結果となっています。データを見ることによって、これまで自分が想像していたのと違う事実が見えてくることもあるのです。
 

今回は、3年で辞めることの何が問題なのかという点については触れませんが、先のNPO代表の方は「3年で辞めてしまう可能性がある大企業にいくなら、ずっと続けられる中小企業へ行こう」というニュアンスのことを述べています。しかし、実際には確率論として中小企業の方が3年以内で退職する確率は高いのです。
 

誤解なきようにお伝えしておきますが、私は「大企業を目指すよりも、中小企業でも自分にあった企業を選ぼう」という意見には賛成です。その意見に正当性を持たせるために平気で嘘をついているNPO代表に怒りを覚えたのです。
 

恐らく、NPO代表の方は嘘をついているつもりはなく、厚生労働省発表の従業員別の離職率のデータを知らなかっただけでしょう。悪気があったわけではないと思います。それでも、若者支援、教育系NOの代表としては、もっと責任をもった発言をしてほしかったです。SNS上で発信された情報に感化されて学生が「大企業ではなくて中小企業に行こう!」と就職活動をして中小企業に就職し、劣悪な労働環境の中で同期のほとんどが辞めて自分も退職することになった場合、それに対して本人以外は責任が取れないからです。
 

パソコンを開き、気になるキーワードを入力すれば、関連する情報がいくらでも手に入る時代です。しかし、そこにある情報がすべて本物とは限りません。数値で示されたデータであっても、サンプルそのものが偏っていれば、自分には参考にならないデータであることだってあります。
 

社会的に信用を得ているNPOの代表でも悪気もなく嘘を言ってしまう時代です。情報に踊らされないためには、少し天邪鬼で生きづらさを感じているくらいでちょうどいいんです。

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この記事を書いた人

井上洋市朗

「なんか格好良さそうだし、給料もいいから」という理由でコンサルティング会社へ入社するも、リストラの手伝いをしてお金をもらうことに嫌気が差し2年足らずで退職。自分と同じように3年以内で辞める若者100人へ直接インタビューを行い、その結果を「早期離職白書」にまとめ発表。現在は株式会社カイラボ代表として組織・人事コンサルティングを行う傍ら、「生きづらい、働きづらい環境を変える方法」についての情報発信を行っている。