障害者の働く意識が変わらなければ、障害者雇用に未来はない。【障害者のキャリア論 佐々木×矢辺対談 前編】

皆さん、ごきげんよう。矢辺です。
 

7月に実施したUstreamLive「障害者のキャリア論」。これは、身体障害者であり、サラリーマンとして働いた後に起業した、Plus-handicap編集長の佐々木さんと、障害者雇用に長年携わってきた矢辺で、「障害者のキャリア」に関する問題を整理し、解決策を考えるために議論したものを中継したものです。
 

 

この「障害者のキャリア論」で何が語られたのか。2回に分けてお届けしたいと思います。
 

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矢辺: 今日は、障害者がキャリアをどういう風に積んでいくと良いのか。どうすれば、企業も障害者もハッピーになれるのか?を議論できると嬉しいです。
 

障害者雇用の世界で仕事をするうちに気づいたことなんですが、企業が障害者雇用の求人を出すとき、例えば、営業職で採用したいと思っても、障害者雇用では営業職は集まらない。事務職とか清掃など、そういう求人じゃないと人が集まらないんです。不思議ですよね。企業側も健常者の中途採用と同じレベルの人材が集まってくれればベストな訳でその分の給料は払うと考えている。でも、そのような求人を出したとしても集まらないと分かっているから、事務職で募集を出しているんです。しかし、一方で、障害のある人から言わせたら、企業は事務職しか募集していないから選択肢がないという声がありました。企業から言わせれば「事務職じゃないと応募が来ないじゃん」。障害者から言わせれば、「事務職しかないじゃん」。こういうギャップが明らかにあるんです。
 

また、企業の人事さんと話していてよく言われる「採用したい人がいない」ということもあります。障害部位の問題もあるんですが、「なぜ当社じゃなきゃいけないのか?という志望理由が弱い」ということが挙げられます。よくある志望理由は、「事務職で応募していたので、できると思って応募しました」。あとは、「CSR活動を一生懸命やって素晴らしい活動をしている」「障害者雇用を一生懸命やっている」「障害者の環境に配慮している」などです。でも、別にそれは、色々な会社がやっている訳です。これじゃあ志望理由が弱くて、うちの会社じゃないとダメな理由は?となってすぐ辞める懸念もあって、採用できないとなる。
 

この前提を踏まえて、佐々木さんに「障害者のキャリア」について思っていることを好きなだけ話してもらおうと思います(笑)。
 

こんな感じで穏やかにスタート!
こんな感じで穏やかにスタート!

 

ー障害者雇用で大事なこと。社会的インフラの整備と当事者意識。
 

佐々木: 最近僕が大事だなと思っているのは、「社会的インフラ×当事者意識」です。社会的インフラとは、障害者雇用における法定雇用率や、企業が障害者のために人事・育成制度を整備することなど、障害者が働くためのインフラがどれだけ整っているかということです。
 

当事者意識とは、人事の方がどれだけ障害者雇用に対して覚悟を持ってやっているのかということと、障害者がどれだけ働くことにコミットするのか?ということ。採用する側と働く側のコミットメントだと思ってもらっても良いと思います。この2つの当事者意識が組み合わさらないと、障害者雇用はうまくいかないと思っています。
 

社会的インフラが整備されると、その次の段階として、当事者意識の改善に問題点が変わってきます。当事者意識が高まっていくと、さらなる社会的インフラの改善点が見えてきます。社会的インフラと当事者意識が交互に改善していくイメージです。それで今は、当事者意識を改善する番だと思っています。
 

矢辺: 社会的インフラである、法定雇用率やオフィスのバリアフリーなどは、かなり整ってきているという訳ですね。それは確かにそうですね。人事の人も全く障害者雇用を知らないという人事はいなくなりました。
 

目をつむっていますが、どうもぼくです。
目をつむっていますが、どうも矢辺です。

 

ーできないことに目を向けるのではなく、できることを探す。
 

佐々木: 法定雇用率が2%に引き上がるとか、雇用率が全体的にあがっていることを考えると、社会的インフラは整ってきています。また、大企業は障害者雇用をするのが当たり前になってきて、障害者社員をどのように育てていって、どのような職域を任せられるのか考えている人事さんが増えてきています。採用する側の当事者意識は高まってきているということだと思います。
 

だから、これからは「障害者の皆さんがんばりましょう(笑)」という時期だと思っています。事務職じゃないとできないというような思い込みを外す。ひょっとしたら自分にもできる仕事がたくさんあるんじゃないかと考えてみる。仕事ができれば良いのではなくて、仕事を通じて、自分はどう自己実現していくのかを考えてみる。働く障害者側の意識を自分で引き上げていくことが今、必要なんじゃないかと考えています。
 

コメントをときどきチェックしながら進めました〜
コメントをときどきチェックしながら進めました〜

 

矢辺: 例えば、障害者が「がんばる(笑)」ために、当事者意識を高めるために、必要なことって何かありますか?
 

佐々木: 「できない」と思わないということじゃないでしょうか。障害を理由にしたり、言い訳にしたりして、自分ができないことを探すのではなく、まず「できること」を探してみましょうということです。
 

「障害者だから」という前提を外して、自分は一個人として「何ができるんだろう」「何したいんだろう」「何する人間なんだろう」って考える。そういうことをぐあっ〜と書き出す。書き出してみると、障害が理由でできないことはどうせ見つかるので、見つけたら省けばいい。とにかく書き出す。
 

例えば、両足不自由なぼくは、100kmマラソンなんてできないし、やらない。24時間テレビからオファー来たってやりません(笑)。っていうように、絶対できないことってある訳です。だから、逆にできることを探す。そういう意識を持てるかどうか。ぼくもそうですけど、できないことがあると塞ぎ込んじゃうんですよ。できないことに目がいくし、日本人の悪い癖で短所改善に目がいっちゃうんですよ。「自分は障害者だ」という認識で生きている方々には申し訳ないんですけど、もう少し過剰な意識を持つタイミングだと思うんです。過剰な意識とは、目が見えないけど、耳が聞こえないけど、体が自由に動かせないけど、これできるんちゃう?っていう、自分に対するポジティブな勘違いです。
 

ー障害者を雇用することは企業にとってギャンブル。
 

矢辺: 私の方から最初に投げかけさせていただいた、事務求人問題は、当事者意識を高めていくということで解決していくとは思うんですが、急には変わらないと思うんです。まず、何から手をつけたら良いと思いますか?
 

佐々木: 障害者の意識変革を促すことですよ。急な話ですけど、矢辺さんの会社で障害者を雇用しますか?
 

矢辺: 仕事ができれば障害があろうとなかろうと関係ないですね。
 

佐々木: そうなんです。結局そこなんです。「仕事できるかどうか」と「仕事やってくれるかどうか」です。お金を払わないといけないから、その分の成果を出してくれるかどうか。法律があって雇用せざるを得ないけど、成果を出してくれるかどうか。
 

今までの成功事例が事務職しかないだけなんだと思います。営業職で障害者を雇用するとか、生産管理部門のマネージャーに障害者を採用するって一種のギャンブルになっているんですよ、人事にとって。だから、そういう場面で成果を残せる障害者が増えていかないと、成功事例が溜まっていかないんです。成功事例が増えれば、未来に雇用される人たちの選択肢も増えていく。
 

熱弁する佐々木氏
熱弁する佐々木氏

 

法律は作られました。次は、障害者の意識。いまここ。
 

ー障害者に足りない自己投資の感覚。目に余る図々しさ。
 

矢辺: 現実問題として、もし営業職や生産管理部門のマネージャーで採用という話になった時に、そういう人材がいないんです。これは他の企業さんで話が出ましたが、障害者のキャリアって健常者に比べて、5〜10年くらい遅い印象があります。つまり、健常者30歳が積んでいるキャリアと障害者の人のキャリアを比べると、25歳、20歳な印象です。健常者と同じようなキャリアを積める気運を作り、社会にしていくために、何が大事だと思いますか?
 

佐々木: 仕事ができる障害者を増やすことが大事なので、1年更新の契約社員として雇用したとしても、企業側はちゃんと成果を求める。目標は100%達成して当たり前って考えさせることを伝えることです。100%達成できるようになる人材に引き上げることは、企業の責任です。法律で障害者を雇用しなくてはいけないのだから、ここは企業側に努力をお願いしちゃいましょう。そして、障害者はもっと自己投資しなくちゃダメですね。自己投資する意識を持つ。自分から動く意識をもつことにも似てるかも。自己投資とは、自分の成長に自分のお金を掛けるということです。
 

例えば、片手欠損の方向けのキーボードってあると思うんですが、その方が企業で働く時に使わなくてはいけないのであれば、買うのって誰ですか?
 

矢辺: 企業でしょうね。
 

佐々木: それっておかしいと思うんです。なんで障害者が買わないの?って思うんです。だって、片腕でも、企業から支給されるふつうのキーボードは打てるでしょ。より便利な環境を作るんだったら、自分で買うでしょう?
 

矢辺: ビジネスマンが自分の使いやすい手帳を自分で買うのと一緒ですね。使いやすいからこの手帳を買ってくださいとは企業に言わない。でも、拡大読書機とかもそうですけど、企業に準備を求めますよね。
 

佐々木: ぼくが新卒で入った会社では、1階から2階に上がるオフィス内エレベーターがあったんですが、基本的にお客さんのために使っていただくという考え方だったので、社員は階段を使うというのが通例だったんです。それで「自分は障害者で足が悪く移動が難しいので、エレベーター使っていいですか?」と聞いたら「階段上れるよね?だったらダメ。」と言われました。「エレベーターを使うことにノーとは言えないけど、それだけの仕事をやってるの?」と言われて、「それじゃあ階段使います」と答えました。
 

社会人って、仕事できる人がある種の正義だと思うんです。毎月達成している営業マンと毎月達成していない営業マンだったら、後者が社内に居づらいのは当たり前です。
 

でも、障害者にはこの感覚がないんですよ。片手用のキーボードを準備してもらわないと困りますと言えちゃう。成果を出していないのに障害者だからという理由で相手に求めることが当然になっている。これが不思議でしょうがないんですよ。
 

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障害者自身の当事者意識が変わらなければ、障害者のキャリア、障害者雇用の現場は変わらないという話が続いた「障害者のキャリア論」前編。後編は障害者がどのようなアクションを起こせば、企業の中でより多くの成果を出すことができるのかという観点で話が続きます。お楽しみに!
 

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この記事を書いた人

矢辺卓哉

双子の妹に知的障害があったことが「生きづらいいね!」の始まり。彼女たちを恥ずかしいと思った自分の心を恥ずかしいと思い、大学3年時、障害のある人に関わる仕事を生涯の仕事にすると決める。障害者採用支援の会社で6年間働き、株式会社よりよく生きるプロジェクトを設立。現在は、障害のある人やニート・フリーター、職歴の多い人、企業で働きたくない人などに特化した支援を行っている。また、障害者雇用を行う企業へ退職防止、障害者が活躍できる組織づくりのコンサルティングを行う。「人生を味わいつくせる人を増やす」ことが一生のテーマ。